十束おとは氏が語るパラレルキャリアの育て方【インタビュー】

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十束おとは氏が語るパラレルキャリアの育て方【インタビュー】

普段は表に出てこない「eスポーツを盛り上げる裏方さん」にインタビューする本連載。

今回は、元アイドルグループ「フィロソフィーのダンス」のメンバーであり、現在はeスポーツイベントのMCなど、多方面で活躍している十束おとは氏を取材しました。

新卒で入った会社を数ヶ月で退職して、アイドルへ転向という異色の経歴。

また現在は「表」ではイベントのMC、「裏」ではキャリアコンサルタントやライターとして活動するという、eスポーツを「表」と「裏」から盛り上げるキーパーソンです。

最初の就職で「引きこもり」に、そしてアイドルへ


──本日はよろしくお願いします。いまの十束さんには、MC、ライター、キャリアコンサルタントなど複数の肩書きがありますが、それぞれどのような割合で活動されているのでしょうか。


割合は時期によってかなり変わるので一言では難しいのですが、大きく分けると「表に出る仕事」と「裏方の仕事」の2つの仕事をしています。

特定の企業に所属はしておらず、フリーランスでやっています。

今月に関しては、キャリア面談の稼働が多かったので、時間換算するとキャリアコンサルタントのような「裏方の仕事」の比重が最も大きかったです。

一方、今回のようなインタビュー取材をお引き受けすることもあったり、先日の「Shadowverse Premier Series 26-27 ドラフト会議」でのMCとしての出演、本日のHyperXブランドアンバサダーとしてのイベント登壇など、ゲーム関連の仕事、およびラジオ出演のような「表に出る仕事」もしていたりするので、時期によって稼働割合はかなり異なりますね。

──十束さんといえば「アイドル」のイメージがありますが。ファーストキャリアは何だったのでしょうか。


四年制大学在学中に就職活動をして、卒業後は一般企業に就職しました。芸能界を志す方は、就職活動ではなく、オーディションを受けて芸能界に入るパターンが多いですが、私はそうではありませんでした。

そういった経緯もあり、芸能活動をすることに対しても、一般企業で働くことに対しても、良い意味で壁を感じたことがないんです。

ある意味で、特殊だったスタートラインが、今の柔軟な働き方につながっているのかなと思っています。

──普通に就職して、その後、アイドル活動を始めるというのは、珍しいパターンかと思いますが…どのような経緯で?


実は、新卒で就職した会社が合わず、心身ともに疲弊して辞職。自宅に引きこもるようになってしまったんです。

そんな時、電撃文庫とSEGAが新しく作る格闘ゲームの公認応援団オーディションを見つけて。

合格者は、好きなキャラクターのコスプレをして広報活動ができるというものでした。電撃文庫が以前から大好きでゲーマーだったこともあり「これは私が適任なのでは?」という気持ちでオーディションを受けました。

自分の将来を考えたとかではなく、直感的にやりたいという情熱だけで飛び込みました。

そこから任期を終え、次に何をしようか考えた結果「表に1度出たなら好きなことを全部やってから芸能界を辞めよう!」と考えて、アイドルのオーディションを受け、合格したという経緯です。

異色の経歴が生んだ「キャリアコンサルタント」という新たな武器


──大好きな「電撃文庫」がアイドル活動をはじめるきっかけだったんですね。ちなみにアイドル活動を終えた後、キャリアコンサルタントの資格を取得されています。どうして資格を取ってまでキャリアコンサルタントの道に進んだのでしょうか。


この道を選んだきっかけは3つあります。

1つ目は、ニッポン放送で就活生を応援する番組にレギュラーで出演していたことです。

その番組を通じてキャリアコンサルタントという仕事の素晴らしさを知り、自分もキャリアコンサルタントとしていつか人のキャリアに伴走する仕事がしたいという気持ちが生まれたんです。また、当時は自分の経験則でしかお便りにアドバイスができなかった悔しい気持ちもありました。

2つ目は、自分自身が新卒の就活で失敗した経験があり、あの時キャリアコンサルタントに相談できていたら変わっていたかもしれないと思ったことでした。結果、今の人生で良かったと思っていますが過去の経験を活かしつつ何かできることがあるのかもしれないと思うようになりました。

3つ目は、アイドルを卒業して転職活動をするとき、芸能活動に関わる職務経歴書をどうやって書けばいいのかわからず、悩んだことです。当時、相談できる人が誰もいなかったんですよね。

──ご自身の苦労された経験がキッカケの1つなんですね。


はい。例えば、プロゲーマーやストリーマーの方が、一般企業に転職をしようと考えたら、当時の私と同じ壁にぶつかるかもしれません。

私のような特殊なキャリアを歩んできた人間がキャリアコンサルタントになれば、同じ境遇の人たちの助けになれるかもしれないとも考えて、資格の取得を決意しました。

──ちなみにアイドル時代の職務経歴書というのは、具体的にどんなことを書いていたのでしょうか。


私の場合、まずは定量的な要素として、ライブの動員数が少ない人数からスタートして最終的に3000人超になっていった中でチームの中でどんな立ち位置でどのようなことを意識して頑張ってきたのかや、個人のSNSのフォロワー数をどのような意識で伸ばしていったかなどを記載しました。

加えて、ありがたいことにeスポーツや映画といったサブカルチャー系の番組の司会、出演実績がたくさんあったのでスキル面も含めてアピールポイントとして書きました。

──プロゲーマーやストリーマーの方も、職務経歴書の書き方に悩まれるケースは多いのでしょうか。


多いと思います。例えば、普段から配信活動している方であれば「週に何回配信しているのか」「どれくらいの視聴者が来ているのか」などを把握したうえで、試行錯誤によって視聴者数が2倍になったのであればその過程や活かしたスキルを書くとよいです。

また、スポンサー契約の実績などを記載しておくことも信頼の証となるのではないでしょうか。

いざ転職となった時に何を書けばいいのか分からないという悩みは、eスポーツ、芸能界に限らず、異業種の転職全般でよくいただく相談です。

──具体的にどのようなキャリア支援をされているのですか。


大学のキャリアセンターへの定期的な勤務のほか、芸能事務所と契約してタレントさんやマネージャーさんのキャリア面談を担当したり、時には転職希望者のキャリア面談をしたりしています。

また、産業カウンセラーの資格も持っており、メンタル面でもキャリアサポートを行っています。キャリアの面談をする上でも普段生活する中でも「心」が一番大切だと感じているからです。

自分の精神状態がマイナスな状態でキャリアのことを考えると、判断もマイナスになりやすいと言われています。キャリアのことだけでなく、メンタルヘルスケアの支援もできたら良いなと以前から思っており、資格を取得しました。

人生には「なんでも屋さん」になる時期があってよい


──ちょっと答えづらい質問もさせてください。十束さんのような多方面で活躍されている方のことをパラレルキャリアと呼ぶこともありますが、その反面「なんでも屋さん」という見え方になってしまう気もします。この辺りはどうお考えですか。


人生のどこかで「なんでも屋さん」になる時期があっても良いと考えています。

ナンバーワンを目指すために、1つの山を登り続けるのは素敵なことです。ただ私は人生を総合競技だと捉えていて、いろいろな山をちょこちょこ登って、総合点で戦う人がいてもよいと考えているんです。

ただ大切なのは、登るとなったら目の前の山を全力で登ること。そのマインドは大事にしています。

いただいた案件や仕事に全力で取り組むことで、徐々にキャリアは伸びていくので、自分がやりたいと思ったことはやってみて、やりながら気づいて、軌道修正していけば良い。

そこまで神経質にならず、時には直感で飛び込んでみていいのではないでしょうか。

年齢やライフステージによって、やりたいことや適職は変化していくものなので、変化する
自分のことを柔軟に受け入れていくことも大切なことだと思っています。

──複数の仕事を掛け持っていて、しんどくなることはありませんか。


それはないですね。「仕事を極める時期」と「仕事を増やす時期」を自分の中で使い分けているからなのかもしれません。

例えば、新入社員として入社した直後の数ヶ月は、覚えることが多くて、とにかく大変ですよね。

その時期にやみくもに新しいことを増やしても辛くなってしまい、仕事も身につきません。まずは目の前の仕事を自分の体に染み込ませてから、次のことを考えた方が良いと思います。

私自身、そのサイクルを意識することで、しんどさを未然に防げているのかもしれません。

今は、独学で培ってきたライティングスキルをスクールに通うことで高めている時期です。まさに「仕事を極める時期」ですね。

──パラレルキャリアを歩む上で、他に意識していることはありますか。


自分自身の研究をよくしています。芸能活動をしていた経験から、常に「どういう風に見られていて、何が求められているか」を意識していて、自分自身を客観的に見る習慣がついたのかもしれません。

アイドルには特典会というものがあり、短時間で累計何千人もの方とコミュニケーションを取る機会がありました。瞬時に相手の求めることを察知する能力や、人と接する上で大切なことは、その仕事の中で培われてきましたし、そのスキルは今の仕事にも活きています。

今まで色々やってきたのですがそれぞれが点として存在していて、一つのキャリアの線として結びつかないというご相談を受けることがあります。AとBの仕事の間に、直接的なつながりがないように見えても、活かせることがあったり、ある日突然その2つが線になる出来事が生まれたりもしますよね。そのアンテナを立てておくことも、パラレルキャリアを歩む上で大切にしていることかもしれません。

多くの先輩方が「女性としてeスポーツに関わること」の道を作ってくださっている


──eスポーツ業界で活躍する女性はまだ少ないという印象があります。十束さんは女性として、この業界に関わってきた中で難しさを感じたことはありますか。


MCとして表に出る仕事をしている上では、自分が「女性であること」について、特段意識はしていません。

ただ、eスポーツに関わる出役として、女性はまだ少ない気がしています。私のように、様々な仕事をしながらeスポーツの表に立つ選択肢もあることを示せたらいいなと考えています。

──女性特有のライフステージの変化、例えば結婚や出産といったタイミングで、キャリアの見通しが立てづらくなるといった悩みはないのでしょうか。


すでに先輩方がご活躍されているので、そこまで心配はしていません。

倉持由香さんやチョコブランカさんをはじめ、ご結婚後も活躍されている先輩方が道を作ってくださっています。ただ、まだ母数が少ないので「女性として、この先どうしたらいいんだろう」と迷う場面はきっとあると思います。

私の場合、例えば出産の時期はライターとして「家で仕事をする比重を増やす」「キャリア面談をオンラインに切り替える」など、柔軟に対応できるかもしれません。

武器をたくさん身につけているからこそ、ライフステージに合った戦い方ができるイメージです。

今は生き方も多様化していますし、引っ越しなど環境が変わる場面でも、オンラインやリモートでできる仕事を1つ持っておくと選択肢が広がります。

何歳になっても武器を増やして、時にはそれを深める時間も取りながら、自分でうまくバランスを取って進んでいくことが、令和のキャリアの育て方の1つだと思います。

多いのは「他の業種からeスポーツ業界に転職したい」という相談


──十束さんはキャリアコンサルタントとして、eスポーツ業界への転職を希望する方の相談を受けることもあると思いますが、どのような悩みが多いですか。


多いのは「他の業種からeスポーツ業界に転職したい」という相談です。

今まで全く関係ない業界で働いてきた中で「自分が培ってきたどのスキルをアピールすればいいのかわからない」という悩みですね。

eスポーツ業界は、外から見るととても華やかな世界に見えるので、実際の中がどうなっているのかイメージしづらい部分もあると思います。

例えばチームのマネージャーになりたいと思っても「どんなスキルが必要で、どうすれば入れるのかがわからない」というご相談を受けたこともあります。

──そういった方にはどのようなアドバイスをされるのでしょうか。


まず知ることが大切だと思っているので、積極的にeスポーツのイベントに足を運んでみることをお勧めしています。

例えば「EVO JAPAN」のように、選手とマネージャーが同じ空間にいる大会もあって、実際に現場を見ることで、どんな仕事なのか、どういう人が求められているのかが見えてくることもあります。

悩んでいるなら、まず現地に行ってみることで感じることは多いと思います。

──最後に、eスポーツ業界でのキャリアを目指す方へメッセージをお願いします。


「ゲームが好き」「eスポーツが好き」というのは志望理由の1つとして素晴らしいです。

ただ、今やそれは、スタートラインに立っている状態でしかありません。そこに自分だけの強みや今までやってきたことを掛け算していくことが大切だと思っています。

今まで別の業界で積んできた経験でも、自分の個性でも。その掛け算によって、自分だけの可能性が生まれてくるはずです。

自分のバックグラウンドや経験を武器に変えて、飛び込んでみてほしいです。

──十束さん、ありがとうございました!

取材・文:松永華佳 編集:小川翔太 写真:秋月健太郎