東京eスポーツフェスタにおける東京都の「役割」とは何か ──東京都産業労働局 根岸様【インタビュー】

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東京eスポーツフェスタにおける東京都の「役割」とは何か ──東京都産業労働局 根岸様【インタビュー】

普段は表に出てこない「eスポーツを盛り上げる裏方さん」にインタビューする本連載。

今回は、東京eスポーツフェスタ実行委員会(※1)に属する「東京都 産業労働局」の根岸太氏にお話を伺いました。

※1 構成団体:東京都、(一社)日本eスポーツ協会(JESU)、(一社)コンピュータエンターテインメント協会(CESA)、(一社)日本オンラインゲーム協会(JOGA)、(株)東京ビッグサイト



2026年で7回目を迎えた「東京eスポーツフェスタ」の達成と課題とは何か。

また、満を持しての対戦格闘ゲームの導入、ファンミーティングの拡充など、大きく変化を始めた同イベントは、産業労働局の目的である「中小企業の振興」と相性の良さはあるのか。

そして「裾野の拡大」から「新たなファン層の獲得」へと踏み出した、戦略的なアップデートの裏側に迫ります。

東京都 産業労働局 商工部 海外販路開拓担当課長 根岸太氏



東京都の「東京eスポーツフェスタ」における役割とは


──本日はよろしくお願いいたします。まずは東京都の産業労働局は、どのようにeスポーツに関わっているのでしょうか。


産業労働局の主な役割は「中小企業の振興」です。

eスポーツそのものの振興はもちろんですが、それを通じて都内の中小企業の技術やサービスを広める、あるいは海外への販路拡大を支援するといった「産業振興」の側面を強く持っています。

──「東京eスポーツフェスタ」における役割を教えてください。


産業労働局は、東京都のほかに各業界団体を含めた「東京eスポーツフェスタ実行委員会」を構成しており、そのなかで実質的な事務局機能を担っています。

東京都がeスポーツ振興を推進する立場として、業界団体や東京ビッグサイトの方々と連携しながら運営にあたっています。

──東京eスポーツフェスタ以外にも、東京都として取り組んでいる施策はあるのでしょうか。


産業振興の観点で言うと、次々と新しい施策に手を出すのではなく、まずは東京eスポーツフェスタと関連するイベントを盛り上げていくことを大切にしています。

具体的には、東京eスポーツフェスタとその関連イベント(2025年は「東京eスポーツフェスタ2026 プレイベント in多摩」を実施)に注力しています。

「東京eスポーツフェスタ2026 プレイベント in多摩」の様子



──東京eスポーツフェスタは今年で7回目ですが、これまでに掲げてきたテーマに変化はありますか。


行政主体のイベントということで、第1回から「子どもから高齢者まで誰もが気軽に参加でき、楽しめるイベント」というコンセプトで開催しています。

また、2つの軸があり「eスポーツの裾野拡大や普及を図ること」と「eスポーツ関連産業の振興を図ること」です。

この軸は、初年度から今回の7回目に至るまで一貫しています。

──ここまでの手応えについてどのようにお考えでしょうか。


「eスポーツの普及」や「裾野の拡大」という点では、一定の成果があったと感じています。

7年前の開始当時は、まだeスポーツの知名度がそれほど高くありませんでしたが、現在はある程度まで浸透が進み、東京eスポーツフェスタがその一助になれたのではないかと思っています。

──これまでの開催で苦戦したことを教えてください。


第1回は集客も好調でしたが、コロナ禍が重なったこともあり、オフライン開催再開直後は来場者数が停滞した経緯があります。

こうした経験から、同じことを繰り返していても来場者は増えないと痛感しました。そのため、今回のように競技タイトルを変更したり、新しい要素を加えたりして「目新しさ」を出し、常にアップデートを続けていくことが何より大事なのだと考えています。

なぜこのタイミングで対戦格闘ゲームを採用したのか


──競技タイトルの変更について、今年から年齢制限(CERO)のある『ストリートファイター6』が導入されましたが、どのような狙いがありますか。これまでは『ぷよぷよeスポーツ』『太鼓の達人』など、世代を問わないタイトルが中心で、どちらかというとファミリー向けのイベントな印象がありました。


「これまでeスポーツフェスタに足を運んでいなかった層」にもリーチしたいと考えたためです。

前提として、東京都が考えるeスポーツの魅力とは「年齢、障害の有無、国籍などに関わらず、誰でも楽しめること」にあります。

そのため、これまでの6回はあえて年齢制限のないタイトルに絞り、門戸を最大限に広げることに注力してきました。

今回のキービジュアルに老若男女、様々なキャラクターを登場させているのも、「誰でも楽しめる」というメッセージを伝えるためです。

「東京eスポーツフェスタ2026」キービジュアル



当初、掲げていた「裾野の拡大」という第一段階のミッションはある程度達成できた自負があります。

そこで、これまでの「誰でも参加できる」良さは残しつつ、これまでeスポーツフェスタに来てくださった層だけではなく、特定の競技シーンを追いかけている熱心なファン層にもアプローチしたいと考えました。

そのための切り札が、現在の対戦格闘ゲームシーンを象徴する人気タイトル『ストリートファイター6』の導入です。

──どのような基準で選定しているのでしょうか。年齢制限などの制約があるなかで、競技タイトルの選定は難しいかと。


実行委員会に参画している各業界団体の方々と意見交換を行い、自治体が実施するイベントとしての「適切さ」のバランスを考慮して決定しています。

基本的には「全年齢の方が楽しめること」が最優先です。また、東京都の「産業振興」の観点からも、基本的には国内メーカーのタイトルを扱う考え方で進めています。

──世界的に人気の高い海外タイトル(フォートナイト、VALORANTなど)については、候補に挙がることはないのでしょうか。


もちろん、海外タイトルの導入を求める意見は実行委員会の中でもあります。

しかし、東京の産業振興の観点を加味し、全体のバランスを検討した結果、まずは国内タイトルを優先する判断に至っています。

eスポーツを社会的活動と紐づける意義とは


──今後「行政がeスポーツに与えられるインパクト」にはどういった要素がありますか。


教育や福祉といった領域は、行政や自治体が関わっていくべき分野だと考えています。

日本の場合、eスポーツを教育や福祉、障害者支援といった他の分野とつなげる取り組みが
盛んです。こうした「eスポーツ×他分野」の掛け合わせは、他の国ではあまり見られない、日本独自の強みだと感じています。

eスポーツとそれらの分野の「橋渡し」をすることこそが、行政としての役割であり、取り組むべきことなのだと感じています。

──「掛け合わせは他国では見られない」とのことですが、日本では他分野との連携が盛んなのはなぜだと思われますか。


昨今、デジタル技術の活用により、各地域での課題解決に取り組む自治体が増えてきています。

バーチャルな空間で競い合うeスポーツは、年齢や性別、障害の有無に関わらず楽しめるといった特徴を持っており、その社会的意義の高さが多くの自治体に浸透されてきたからこそ、他分野との掛け合わせが広まってきているのではないでしょうか。

──少し不躾な質問をさせてください。ゲーマーの立場からすると、eスポーツを教育や福祉などの、社会的な活動と紐づける話は、どうしても「説教臭い」と感じてしまう部分もあります。とはいえ、ゲーマーの方々からの賛同も得たほうが、推進もしていきやすいと考えます。難しいかもしれませんが、一般的にゲームを楽しむ方々向けに、そういった活動の意義を説明するとしたら、どのように説明されますか。


大前提として、一般的にゲームを趣味として楽しまれている方々は、思う存分楽しむことを優先していただきたいです。必ずしも社会的な活動と紐づける必要はありません。

一方で、これまでeスポーツに関わったことが無いという方々については、「教育」や「福祉」などの切り口でeスポーツに触れていただくと、eスポーツをより身近に感じていただけるのではないかと思います。

昨年の目玉となった「任天堂・セガ・コーエー・カプコン・KONAMI」──豪華なビジネスセッションは今後、実現するのか


──今回のパブリックデイ(一般公開日)における、目玉コンテンツや集客面の施策を教えてください。


今回はファンミーティングの数を大幅に増やしたことと、人気アンバサダーを起用した参加型施策を集客の柱に据えています。

具体的には、土日のファンミーティングを「1日2枠」程度に拡充し、より多くのファンの方々に足を運んでもらえるようにしました。

また、知名度の高いストリーマーであるスタンミじゃぱんさんにアンバサダーとして入っていただき、チェキ会なども実施しました。

これらは、今までフェスタとの接点がなかった方々に「会場に来てもらうため」のきっかけを作るという点だけでなく、eスポーツ業界を支えるファンの存在を色んな方々に知っていただくという点でも重要です。

また、今年から始まった「ゲーム開発コンテスト」も目玉コンテンツの一つです。コンテストには学生部門とプロ部門があり、現在ゲームを作っている方々が、将来的にeスポーツのタイトルとなるような作品を生み出す一助になればと考えています。

コンテストの開催を通じて、クリエイターの方々の励みになる場を、行政としても提供していきたいと考えています。

──ビジネスデイにもファンミーティングがあるのは何故でしょうか。産業労働局としては最も力を入れたいのがビジネスデイだと推察するなか、エンタメ要素があると「ビジネスデイとして特化しきれていない」と思ってしまったのですが。


会場のキャパシティや予算などの「物理的な制約」、行政事業として「目に見える成果」を出すこと、それらを踏まえて、イベント全体を企画する必要があります。

(物理的な制約として)ステージの数には限りがあります。土日は競技大会がメインとなるため、エンタメ性の高いコンテンツを「すべて土日に詰め込む」のは難しいです。

さらに重要な点として、税金を投入して実施している以上、集客数などの明確な「効果」が示せなければ、イベント自体を継続できなくなってしまいます。

もちろん、ビジネスデイ・パブリックデイそれぞれの位置づけ・役割に沿って企画を組むようにしていますが、時には柔軟に対応することも、このプロジェクトを守るためには必要なことと考えています。

げまげまトークショー&TFT(東京eスポーツフェスタ2026)



──個人的には、昨年のビジネスデイのセミナー「ゲーム業界における知的財産権の重要性について」が面白かったです。今後もこうしたインパクトのあるビジネスセミナーを実施される予定はありますか。あのような大御所は産業労働局の力が無いと集められない気がしまして。



現時点で具体的な計画はありませんが、常に「業界の時流」と「集客」のバランスを考慮しながら、必要なテーマを検討していく方針です。

昨年のセミナーの反響が大きかったのは、それが当時の業界にとって「必要とされていたテーマ」だったからです。

今後も各業界団体が「今、何を訴えたいか」というニーズを汲み取りつつ、それをどう集客に繋げるかをセットで考えていきます。

昨年のビジネスセミナー「ゲーム業界における知的財産権の重要性について」(東京eスポーツフェスタ2025)



これからのeスポーツイベントに必要なこと──多様なコンテンツを同時に行うこと


──地方自治体でもeスポーツを活用する動きが広がっていますが、東京eスポーツフェスタの取り組みの中で、他の地域でも応用できるような「ベストプラクティス」があれば教えてください。


eスポーツは、様々な体験型コンテンツの展開が可能です。

特に、プログラミング体験などの学習コンテンツは、子どもの学びにつながり、新たな発見が得られる機会にもなるため、フェスタにおいても人気のコンテンツとなっています。

ファミリー系のイベントにぜひ取り入れてみることをおすすめします。

──最後に、これからの東京eスポーツフェスタを通じて、来場者に伝えていきたいことは何でしょうか。


皆さんそれぞれeスポーツに対するイメージや印象は異なると思いますし、必ずしもポジティブな意見ばかりではないと思います。

しかし、東京eスポーツフェスタに来ていただければ、楽しさとともに、eスポーツの競技としての奥深さや社会的な活用における幅の広さを感じていただけるはずです。

今後も、様々な企画を通じて、eスポーツが持つ多様な魅力を発信し、eスポーツ産業の更なる発展につなげていきたいと考えています。

──根岸さん、ありがとうございました!



取材・文:小川翔太、松永華佳