【独占取材】なぜ北海道新聞社は「ALGS札幌」の件をスクープできたのか?

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【独占取材】なぜ北海道新聞社は「ALGS札幌」の件をスクープできたのか?

普段は表に出てこない「eスポーツを盛り上げる裏方さん」にインタビューする本連載。

今回は、2025年1〜2月に開催された「ALGS Year4 チャンピオンシップ」の現地取材を行い、「ALGS札幌3年連続開催」をいち早く報じた北海道新聞社の山中龍之助記者を取材しました。

地方紙としてeスポーツにどう向き合っているのか。そして、EAからの公式発表よりも早く「ALGS札幌開催」の報道に踏み切った理由を聞きました。

北海道新聞社は公式より先に「札幌ALGSの開催」を報道。ネットでは話題となった


地方新聞社として「eスポーツ」をどう捉えているか


──記者会見直後のお忙しいところありがとうございます。まず、地方新聞社である貴社にとって、現状のeスポーツというものがどのように見えているのかお伺いしたく。


こちらこそよろしくお願いします。

eスポーツは「画になる」という側面があり、新たなコンテンツの盛り上がりを報じるというのは、一定のニュースバリューがあると考えています。

eスポーツはまだまだ市民権を得られておらず、野球、サッカーなどのフィジカルスポーツと比べて、プレイ人口も多くはありません。

ただ、伸びしろはあると考えています。

昨年9月にチャンピオンシップの開催地が発表されてから、北海道民の読者に向けて「eスポーツとはこういうものですよ」という発信に力を入れています。

──ご自身もeスポーツやApexLegendsをプレイされるのでしょうか?


はい。今日も夜勤明けで昼から出勤して、14時から先ほどの記者会見に出たのですが、午前中は自宅でAPEXをプレイしていました(笑)。

──具体的にどのあたりに伸びしろを感じますか。


これから認知度が上がっていくという、ポテンシャルを感じます。

高校生eスポーツ大会「STAGE:0」(ステージゼロ)などの大会や、テレビでも有吉さんの番組などがありますが、まだ実際にどの程度の人が見てくれているかわかりません。

テレビや新聞などのオールドメディアも、eスポーツに関する報道をしていかないといけないと、個人的には感じています。

また日本はもともとゲーム産業が強いので、eスポーツ業界も右肩上がりになっていくことが想定され、経済的な影響も大きいと考えています。

──参考までにお伺いしたく。これまで貴社が取材してきた中で、eスポーツの「伸びしろ」を具体的に感じた事例があれば、お伺いしたく。


教育を始めとした、他ジャンルとの親和性が高く、融合がしやすい点に伸びしろを感じます。

放課後デイサービスの現場を取材をしたとき、福祉の分野でのeスポーツの導入に可能性を感じました。また、北海道医療センターで筋ジストロフィーの患者の方を取材させていただいたこともあり、患者さんは、手先を器用に動かせるわけではないのですが、専用の反応の良いコントローラーを使用して対戦されていたり、リハビリに繋げたりされている場をみました。

こうしたトピックを報じることで、市民生活の身近な場所に実はeスポーツがあるということを知ってもらいたいと思っています。

公式より先に報じた「ALGS札幌開催」報道の真相


──貴社媒体では、6月19日時点で「ALGSが26年、27年も札幌開催の見通しである」という報道をされました。EA陣営や関係者からすると、本来、本日24日の公式記者会見が初報になる想定だったのかなと思います。この辺り、どのような背景や意図があって、先んじての記事の掲載を判断されたのでしょうか。


多くは話せませんが、やはり報道機関として、多くの皆さんに知っていただきたい情報でしたので、会社として報道しようと判断しました。

──ご自身がAPEXのプレイヤーだからうれしかったというのもありますか。


うれしい気持ちは少なからずありました。よく遊んでいたゲームの世界大会と聞いて「大会の取材は私にやらせてください!」と飛びついた経緯もありますし、year4のCSが非常に盛り上がり、多くの人から「来年も札幌で」といった声がありました。

そんな中、3年連続札幌開催という明るいニュースを多くの人に知っていただこうと判断した、といったところでしょうか。

──私の感覚ですが、ゲーム業界やeスポーツ業界はリークに厳しく、一つの報道でパブリッシャーとの信頼関係を大きく毀損するというリスクもあるという認識です。今回の報道については(報道のタイミングやソース含めて)私自身も驚きました。私個人としては、仮に情報を得たとしても、媒体での報道は自重するかなと。純粋な質問なのですが「eスポーツの発展」を最優先とした場合、Web媒体も含めて各媒体は、現状のように「運営側の顔色を伺う」のではなく、(リークに限らず)もっとリスクを取って、“攻め”の報道をしたほうが良いのでしょうか。


一般論として、独自報道を打つ時は業種を問わず人間関係の軋轢やひずみみたいなものが生じるリスクは少なからずあります。

それを前提に個人的な考えを述べると、読者にとって有意義な情報を正確に早く届けるのが報道機関の役割であって、時には取材先を説得して報道することも必要なことだと思います。

──結果的に今回の記事は世界中、多くの方に読まれたかと思います。貴社のような地方の報道機関には「地元の情報を日本中・世界中に発信する機能」「日本中・世界中の情報を地元に届ける機能」の2つがあるとお見受けします。今回は前者でしたが、今後は後者のように、日本中のeスポーツ事例を、北海道民に積極的に届けていくことは考えていますか。また報じるとしたら、どのようなeスポーツ事例であれば、ニュースとしての価値を見出しますか。


やはり北海道新聞ですので、「北海道に関する話題なのか」は最優先で考えています。

例えば、year4のCSが札幌市で開かれたこと、その大会には道内出身の選手も出場していたことなど、一つ一つのトピックと北海道との関連性は報じる、報じないの判断基準になります。

あるいは、国内各地の先進事例を紹介するという切り口から記事を書けば、道内の人々に道外のeスポーツ事情について触れる機会をつくれると思います。具体案はまだ考えていませんが…(笑)。

──終始、お答えしづらい質問で恐縮です。少なくとも山中さん個人は「APEXを盛り上げたいという善意」で活動されていると理解しました。最後なのですが、WebメディアやWebで活動するeスポーツジャーナリストに「eスポーツを盛り上げる」という点で期待したいことはありますか。我々、Webメディアだからできることがあれば尽力したいと考えての質問です。


もちろん「eスポーツを盛り上げたい」という気持ちはeスポーツ関連メディアの人々や札幌で開かれるALGSの関係者と一緒です。

ただ、私が勤めているのは新聞社なので「多くの読者に分かりやすく報じる」を心がけており、マニアックな解説は載せにくい実情もあります。

逆に言えば、専門のwebメディアの場合はeスポーツファンのニーズに応えられる記事も掲載できるでしょう。適材適所、互いが互いに得意な分野で記事を展開できれば、より多くの人がeスポーツの知識を深め、楽しめるようになると思います。

ぜひ、もっとニッチな記事をたくさん書いてください!私も読みたいです。

──今回はありがとうございました!

※以下、記者会見の様子

※以下、記者会見の様子
エレクトロニックアーツ社 ヘッド・オブ・eスポーツのモニカ・ディズモア氏と、札幌市の秋元克広市長が覚書締結後に握手。ALGSチャンピオンシップ3年連続開催に向けたパートナーシップが正式に始動した瞬間です。
Electronic Arts Esports 総合責任者 モニカ氏は、「今年のチャンピオンシップは、EAがこれまで開催してきた中でも最も素晴らしいライブイベントの一つでした」と振り返りました。

「札幌に到着した瞬間から、スタッフや選手たちは地元の料理や文化、温かなおもてなしを存分に楽しむことができました」と話し、開催地・札幌への強い印象を語りました。「2年間にわたり、この美しい都市で再び大会を開けることをとても光栄に思います」とも述べ、今後の開催に向けた期待感を示していました。
札幌市市長の秋元市長は、「今年の大会では、選手たちの熱い戦いと観客の皆さんの熱気を会場で肌で感じることができた」と振り返りました。また、「今後2年間で、より多くの市民や世界中のファンに喜んでいただける大会にしていきたい」と意気込みを語りました。

大会を通じて札幌の魅力を世界に発信し、eスポーツを活用した地域活性化や若者文化の振興につなげたいという考えも示していました。
一般社団法人北海道eスポーツ協会 会長の阿部雅司氏。会見では「今年1月に開催されたALGSは、国内外から多くの選手やファンが集まり、大きな盛り上がりを見せた」と述べ、再び札幌開催が決定したことへの感謝を示しました。

「eスポーツの楽しさだけでなく、札幌の自然や食、人の温かさも感じてほしい」と語り、地域との融合にも期待を寄せていました。また、「この大会は北海道の地域活性化につながる可能性を秘めている」として、引き続き札幌市や関係者と連携しながら全力でサポートしていく姿勢を強調しました。
株式会社札幌ドーム 代表取締役社長の阿部晃士氏。会見では「今年の大会の成功を受け、3年連続開催が決定したことは大変光栄」と語り、「札幌が世界的なeスポーツイベントの開催地として認知されるよう、全力で取り組んでいきたい」と意欲を示しました。

また、プレミストドームの特性を活かし、雪の多い札幌でも快適な大会運営が可能であることを強調し、今後さらに多くのeスポーツイベントを誘致していきたいとの展望も述べていました。
モニカ氏と秋元市長が、ALGSチャンピオンシップの3年連続開催に向けた覚書に署名する様子。

2026年・2027年の大会も札幌市で開催されることが正式に決定し、両者は今後の協力体制のもと、大会のさらなる発展に向けた準備を進めていくとしています。
ALGSチャンピオンシップの3年連続札幌市開催に向け、それぞれの立場から大会の意義と展望を語り、今後の連携強化と地域との共創を誓いました。

札幌が「eスポーツの聖地」として世界に名を広げる未来に向けた、新たな一歩が刻まれました。

取材・文:小川翔太、松永華佳