【緊急取材】日本テレビはVALORANT Challengers Japanの“何”を変えたいのか?

  1. eekトップ
  2. ブログ一覧
  3. 【緊急取材】日本テレビはVALORANT Challengers Japanの“何”を変えたいのか?

【緊急取材】日本テレビはVALORANT Challengers Japanの“何”を変えたいのか?

普段は表に出てこない「eスポーツを支える裏方さん」に迫る本連載。

今回は「VALORANT Challengers Japan(以下、Challengers Japan)」の大会運営・制作に携わる日本テレビ放送網の統括プロデューサー・大田翔士さん。

2025年からの新体制(※1)による、初のオフライン開催で注目が集まる中、緊急取材を実施しました。

日テレは伝統のある大会の「何を変えて」「何を変えなかった」のか。

※1 ライアットゲームズの大会運営パートナーとして、日本テレビ放送網と博報堂は「VALORANT Challengers Japan 2025 実行委員会」を発足

旧体制「RAGE」へのリスペクト


──2025年から始動したChallengers Japanの新体制について、どのような意識で取り組まれたのか教えてください。


最初にお伝えしたいのは(旧体制の)RAGEさんに対するリスペクトの気持ちを持っているということです。過去4年間、Challengers Japanをここまで築いてくださった運営体制に対して、本当に敬意を抱いています。

今回の大会では、一部過去大会のBGMも使用しました。これは、長年応援してくださるファンの方々に親しみを持ってもらえるよう、現場チームのアイデアで取り入れられた演出のひとつです。

そのうえで、僕たちがさらに力を入れたのが、「選手のことをしっかり伝える」という部分です。一人ひとりがどういう人なのか、どんなストーリーを持っているのかを知ってもらうことで、観戦する側の気持ちの入り方が変わると考えています。

だからこそ、SNS PRや地上波でのテレビ放送、選手紹介の映像、入場演出、実況者への事前情報共有など、そのすべてに、選手の存在をより深く届けたいという意図を込めました。

3画面ビジョンにより「見やすさ」を意識


──新体制での初のオフライン大会となる、「VALORANT Challengers Japan 2025 Split 2 Playoff Finals」でしたが、演出面での工夫についても伺えますか。


今回の大会で強く意識したのが“見やすさ”です。

今回のSplit 2では、手越祐也さんに公式スぺシャルサポーターとして参画いただきました。手越さんの出演をきっかけに、これまで『VALORANT』の試合を見たことがない方々も、試合を観戦することが想定されます。

例えば「ガチ解除(※2)」という言葉、eスポーツファンであれば分りますが、初めて見る方には意味不明だと思います。そういう部分を極力減らして、テロップや演出で丁寧に伝えることを徹底しました。

会場にもこだわりました。3面の大画面ビジョンを設置して、どこからでも試合が見られるようにしたんです。物販に並んでるときも、キッチンカーで食事をしているときも、常に大会の熱量に触れられる空間を意識しました。

しっかり試合を見てもらって、ファンになってもらう、そしてSplit 3にまた来たいと思ってもらえる設計を目指しました。

※2 敵がまだ残っている状態で、フェイントではなく最後まで爆弾の解除をし続けること

3面の大画面ビジョンにより
会場のどこにいてもリアルタイムで試合状況が把握できた


「日テレらしさ」よりも「伝統」を優先


──Split 3のPlayoff Finalsもオフライン開催(※3)であることが発表されましたが、VALORANTの競技シーンは仕組みが頻繁に変わります。「イベントの組み立て」が、大会の仕組み(試合数、スケジュール)に依存してくるので、ご苦労もあるかと存じ上げますが、その点についてはいかがでしょうか。


もちろん大会設計そのものは僕たちだけで決められるものではありませんが、「こういう仕組みなら、もっと良くなる」という提案は常にしています。

最終的には、日本のコミュニティという非常に大きな基盤をどう活かすかを含めて、多くの関係者と話し合って、今の大会構造が作られました。

※3 「VALORANT Challengers Japan 2025 Split 3 Playoff Finals」が京王アリーナTOKYOにて開催されることが決定。日程は、8月23日(土)・24日(日)の2日間



──オフライン・オンライン開催それぞれの重要性については、どのように考えていますか。


オフラインイベントにはやっぱり熱量があるし、来場者の記憶に残る体験をお届けできます。だからといってオンラインを軽視していいわけではありません。

配信ならではの演出や、SNS上での盛り上がりの設計、そして全国どこからでも見られる利便性がある。オンラインにはオンラインの見せ方があるとも思っています。

だから、どちらかではなく“両方”が大事だと考えています。

──ここまでの運営で印象的だったことを教えてください。


今回の体制を振り返って思うのは、ライアットゲームズをはじめとした関係各所のサポート、そして運営・制作チームのメンバー全員の尽力に対して、本当に感謝しかないということです。

僕たち日本テレビ・博報堂社としても、ここまで大規模なeスポーツの大会運営は初めてに近い状況で、最初は正直手探りでした。でも1つひとつの課題に向き合いながら、誰かが提案して、誰かが支えて、チームで作り上げた大会だったと思います。

最初は「テレビ局が運営するって、どうなるんだろう?」と心配の声もありましたが、むしろそれを聞いて個人的に安心した部分もあります。

何故なら(最初から我々は)僕らに求められているのは「日テレらしさ」ではないと考えていたからです。「過去の流れを壊さず、今まで築かれてきたものに、自分たちの強みをどう重ねていくか」であるという視点で臨んでいます。

「次の“Laz”」の戻れる場所を作れるか ── 目指すのは「Bリーグ」のモデル


──今後の課題と展望について伺いたく。VALORANTの国内シーンは、よく「MLBに対するNPBのような位置付け」と形容されます。野球ではメジャーリーグで活躍した選手が日本プロ野球に復帰するケースがありますが、現状、VALORANTの国内シーンではそれが想像できません。

象徴的なのは昨年の「Laz(※4)さんの現役引退」です。国内シーンがいま以上に(ビジネス的にも)成熟していれば、「ZETAから移籍して国内リーグで競技を続ける」という選択肢もあったのかなと。

もちろん、Lazさんのご決断が尊重されるべきなのは大前提として、あれほどのトッププレイヤーでも、「現役の継続」ではなく「クリエイター部門への転向」が“妥当な選択”になってしまう現状は悔しいです。これらについて、大田さんはどのように受け止めてらっしゃるか伺いたく。


※4 神奈川県横浜市出身の元プロゲーマー、現ストリーマー。現役時代は、eスポーツチームZETA DIVISIONのVALORANT部門でリーダーとしてチームを牽引。
国際大会「2022 VALORANT Champions Tour Stage 1 - Masters Reykjavík」において、日本史上初の世界3位という歴史的快挙を成し遂げた。
「体力的に『VALORANT』に集中することに限界を感じた」とし、2024年8月に引退を表明。


Lazさん自身にも葛藤があったかと思います。

「選手としてまだ引っ張れる」という思いと「次世代を育てたい」という気持ち。そのうえで、今のChallengers Japanの枠組みに「戻れる場所」があることは大切だと考えています。僕らは、そういう土台をしっかりと作っていきたいと考えています。

(個人的には)Bリーグ(日本プロバスケットボールリーグ)のような、地域密着型で持続可能なモデルにもヒントを得られるのではと考えています。

かつていま以上に注目を集めていた時期もあるJリーグ(日本プロサッカーリーグ)ですが、近年は多くの優秀な選手が海外に挑戦するようになり、それに伴って国内リーグの存在感がかつてよりも薄れてしまっているように感じます。

一方、Bリーグは、スター選手が国内にいて、地域に根ざした運営がしっかりできている。そこはすごくヒントになります。

競技のクオリティだけではなく、ビジネスとして持続可能にするための仕組みががないと、いくら盛り上がっても続かない。だからこそ、選手にとっても続けやすい環境を整えていくことが、今後の課題でもあり目標でもあります。

──力強いお言葉ありがとうございます。最後に、Challengers Japanの新体制としてこれから目指していきたい姿を教えてください。


Challengers Japanの新体制は、まだまだ発展途上です。しかし「選手が主役」というテーマだけは、ブレずにやってきました。ファンが「この選手を応援したい」って思える、そのためのストーリーや演出、情報の設計を、僕たち運営側がどこまで丁寧にできるかが重要だと考えています。

また、私自身、過去にほかゲームのコミュニティ運営をしていたので、これまで積み上げられてきたVALORANTのコミュニティを大切にしたいという気持ちが強いです。

テレビ局としての強みを活かして、ただのスポーツイベントじゃない、「物語のある大会」を作っていきたい。Challengers Japanは、その挑戦をこれからも続けていきます。

──大田さんありがとうございました!

取材・文:小川翔太、松永華佳