小さな情報でも「集める」と価値が出る──eスポーツライター・Yossyさん

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小さな情報でも「集める」と価値が出る──eスポーツライター・Yossyさん

eスポーツ専門の求人メディア「eek(イーク)」では、業界を支える多様な職種や個人の歩みにフォーカスしたインタビュー記事をお届けしています。

今回は、個人ニュースサイト「Negitaku.org」を20年以上にわたって運営し続けるライター・フォトグラファー、吉村尚志さん(Yossyさん)です。

(※本取材は「VALORANT Challengers Japan 2025 Split2」の会場で実施)

取材・文:小川翔太


Yossyの正体──本業はeスポーツと無関係のサラリーマン


──よろしくお願いします。「Negitaku.org」の立ち上げ経緯や歴史については把握していますので、今回のインタビューでは、より深くお伺いしたく。まずは現状もサイト内では、広告も外れており、こちらはほぼ無収益でボランティアのような運営になっているという理解でよいでしょうか。


そうですね。昔は広告を貼っていたこともありましたが、今は外しています。お金が欲しくないというわけではないのですが、記事を読んでほしいと思っているのに、広告が途中に差し込まれるのが嫌でして。

ユーザーからすると読みづらいですし、だったらない方がいいのかなと思って、外しました。

そもそも、そこから入ってくるお金も、ものすごく多いというわけではないので、自分が気持ちよく運営できる形にしておきたかったんです。

──無収益とのことで、ほとんど趣味としてのご活動ということになりますが、それでも「Negitaku.org」を23年間続けてこられた原動力は何でしょうか。


一番の理由は、eスポーツが好きだからです。

取材や発信を通じて、自分の好きな世界とつながり続けられることが、今も変わらぬ原動力になっています。

僕は『ストリートファイター 2』や『バーチャファイター』などの格闘ゲーム直撃世代で、人と競い合うことに面白さを感じていました。地元でそこそこ強かったとしても、ゲームセンターに行けばさらに強いプレイヤーがいて、全国には梅原大吾さんのようなトップ選手がいる。その先には、世界大会という舞台まである。そのスケールの大きさに圧倒され、夢中になっていきました。

そうした「世界の戦い」を追いかけながら発信を続けることで、現地での取材の機会を得られるようになり、プレイヤーたちと直接話すこともできるようになりました。

──すさまじい物量の取材活動を「副業」として続けられていますが、本業はeスポーツやカメラと関係のあるお仕事なのでしょうか。


まったく別の業界でフルタイムの会社員として働いています。副業申請は出していて、企業側も僕のプライベートでの活動については把握しています。

実は以前、僕の会社に「eスポーツ業界から転職してきた人」がいて、その人は僕のライターの活動について知っていたようで、「え!入社した会社にYossyさんがいる!」と驚かれたこともありました(笑)。

90年代のネットの価値観──「情報はもらったら返す」を続けて23年


──情報発信を続けるうえで、何を大切にされていますか。


一番大切にしているのは「自分が好きで集めた情報を、同じように興味を持っている人たちと共有する」という考え方です。これが僕の活動の原点であり、今もブレていません。

もともと1990年代のインターネット文化には「情報をもらったら返す」というギブアンドテイクの価値観があって、僕もその影響を受けてきました。たとえば、海外のゲームシーンについて調べたときに、「せっかくだから自分だけじゃなく、同じように好きな人にも知ってほしい」と思って発信していました。

──90年代の価値観がルーツにあるとのことですが、現在のSNSを中心とした、シェアや拡散の文化も「情報をもらったら返す」の延長線上にあるのでしょうか。個人的には、現在のSNSは善意での情報発信というよりも「いいね」という承認欲求を獲得するゲーム性が強すぎるので、Yossyさんの動機からは変質してきているような気がしており、ご見解を伺いたく。


たしかに少しベクトルは違うかもしれません。

僕自身も、サイトでのアクセスや広告収益が増えたら嬉しいという気持ちもありましたが、閲覧数などを目的にすると「自分のやりたいことからズレてしまう」と考えました。

だからこそ、いまでも「好きで集めた情報を皆に提供する」という考え方を大切にしながら、発信を続けています。

──「やりたいことからズレてしまう」とのことですが、Yossyさんにとって「これだけはやりたくない発信」というのは何でしょうか。


リーク情報やチート情報の発信です。

自分はやらないですし、他の人にも避けてほしいと考えています。確かに、そういう情報は注目を集めやすく、インプレッションも稼げるでしょう。

そうした発信をしている人も見かけますが、僕のやりたいこととは違います。

僕にとっての情報発信は「誰かの役に立つ情報を広めたい」という気持ちが根底にあります。そういう意味で、リークやチートの情報は、その方向性とはズレているのです。

過去に「Negitaku.org」で「ユーザーがニュースを投稿できる仕組み」を設置していたことがありました。そこでは、ユーザーから「海外のプロゲーマーが誰と付き合っているか」といったゴシップ記事が投稿されることがあって、当時アクセス数はかなり伸びました。

ただ、それはeスポーツの本質的な魅力とは、関係のない部分での盛り上がりに思えました。

プロゲーマーのプライベートや裏側を知ることが楽しいという気持ちは理解できますが、自分のサイトで扱いたい内容ではなかったので、その手の投稿は削除させてもらいました。

「何者かになりたい」若者へのアドバイス──評価されるための簡単な方法は“継続”すること


──Yossyさんのようにeスポーツを趣味と仕事の間で横断して、自己実現されている方は、多くの若者のロールモデルになっています。eスポーツアワードでは功労賞を受賞した、Yossyさんは「何者かになった」ともいえます。YouTuberやインフルエンサーの活躍が目立つ時代において、若者の中には「何者かになりたい」と考える人が増えてきている印象がありますが、そのような方々に向けて、eスポーツ業界で長く活動されている立場からアドバイスはありますか。


よく僕が伝えているのは「評価される一番簡単な方法は、継続すること」だということです。僕自身、ただ好きなことを続けてきただけですが、気がつけば「Negitaku.org」を23年間も運営していました。

eスポーツのメディアを何十年も続けている人は、実はあまり多くありません。だからこそ、続けるだけでも評価されることがあります。

──ありがとうございます。これは私の考えすぎかもしれませんが、昨今のYossyさんが継続して発信されている内容をみると「eスポーツが社会と交わっていく変化」に関心があるようにお見受けしました。例えば「地方自治体の『○○をeスポーツを聖地』発言のまとめ」や「岸大河さんのアンバサダーまとめ」などです。この辺りについてはいかがでしょうか。


確かに、そういった発信もしていますが、これは「何かを意図してまとめた」というよりも「記録している」という感覚に近いですね。

小さな情報でも「集める」と価値が出始めるんです。

たとえば、いま挙げてくださった「『○○をeスポーツを聖地』発言のまとめ」については、「eスポーツの聖地」を名乗る自治体が増えていることに気づいて、それらを一覧でまとめてみました。すると、どの地域がどんな発言をしているのかが整理されて、情報としての価値が出てきます。

感覚的には「切手」や「ビール瓶の王冠」を集めるようなものに近いです。そういった発信をしているのは「集めるのが好き」という、僕自身の気質ですね。
引用:「esports(eスポーツ)の聖地」を目指す都道府県まとめ

取材現場の変化「昔はもっと選手との距離が近かった」──今日も「1枚」の写真を撮るために


──最後に、長らくeスポーツシーンを取材されているYossyさんに、取材現場の変化についてお伺いしたく。まず今回の「VALORANT Challengers Japan(以下、VCJ)」は、新体制(※)による初めてのオフライン開催でしたが、運営の体制の変化について、どのような感想を持っていますか。


※ 2025年から、国内のVALORANT公式大会の大会運営パートナーが、従来のRAGE(CyberZ/エイベックス/テレ朝)から、日本テレビと博報堂DYメディアパートナーズに変わった

今回の「VCJ」は、運営体制が新しくなって初めてのオフライン開催ということもあり、会場のスタイルがこれまでとは異なっていました。また、特に感じたのは、メディアへの露出の部分です。

先日、日本テレビで「VCJ」の特集が放送されているのを見たときは、正直驚きました。日本テレビさんと組んだことで、報道枠が取れたのだと思いますし、その点において、大きな相乗効果があると感じています。

──今のeスポーツシーンで、取材者として感じていることを教えてください。


昔は、もっと取材班と選手との距離が近く、撮影もしやすかったんです。イベントの場所もネットカフェだったり、もう少し大きくても200~300人程度の会場でした。

今は会場の規模も大きくなり、(取材陣と)選手との距離ができたのを感じています。取材のしづらさもありますが、それはeスポーツ業界が成長したからなので仕方ない部分もあると思っています。

それでも、現場で「これだ」と思う瞬間が撮れると、それだけで会場に来た価値があると思えるんです。今回のDay1で撮影した「NOEZ FOXX」オーナー、DJふぉい氏の写真もそうでした。

あれは自分の中でも印象的な1枚になりましたね。

──Yossyさん、ありがとうございました!