モータースポーツがeスポーツとコラボした理由とは──株式会社日本レースプロモーション 代表取締役社長 上野禎久氏
普段は表に出てこない「eスポーツを盛り上げる裏方さん」にインタビューする本連載。
今回は、モータースポーツの興行を主催する株式会社日本レースプロモーション代表取締役社長の上野禎久氏を取材しました。
2025年7月に富士スピードウェイで開催された、「e-Motorsports 合同就職 EXPO by FENNEL × SUPER FORMULA」では、プロeスポーツチーム「FENNEL」と協働し、154名の学生が参加する大規模イベントを実現。eモータースポーツを通じて自動車業界への新たな入り口を作る取り組みについて、詳しくお話を伺いました。
今回は、モータースポーツの興行を主催する株式会社日本レースプロモーション代表取締役社長の上野禎久氏を取材しました。
2025年7月に富士スピードウェイで開催された、「e-Motorsports 合同就職 EXPO by FENNEL × SUPER FORMULA」では、プロeスポーツチーム「FENNEL」と協働し、154名の学生が参加する大規模イベントを実現。eモータースポーツを通じて自動車業界への新たな入り口を作る取り組みについて、詳しくお話を伺いました。
eスポーツチーム「FENNEL」との合同就職説明会を開催した背景
──まず、日本レースプロモーションがどんな企業なのかをお聞かせください。
日本レースプロモーションは、モータースポーツの興行を主催する企業です。
具体的には、「SUPER FORMULA(スーパーフォーミュラ)」というレースコンテンツを主催し、その興行収入や各種権利収入を得ています。新日本プロレスがレスラーを抱えて運営をするイメージを思い浮かべていただくのが、一番分かりやすいかもしれません。
私たちの企業の場合は、モータースポーツという商品を提供し、ファンの方々に観戦していただくことで経営が成り立っています。
──今回、プロeスポーツチーム「FENNEL」との合同就職説明会を開催したのには、どういった背景があるのでしょうか。
今回の、「e-Motorsports 合同就職 EXPO by FENNEL × SUPER FORMULA」は、eモータースポーツを通じて自動車業界に関心を持つ人材と企業をつなげたいという思いから開催しました。
開催の大きなきっかけは、弊社の営業担当の桑原から打診があったことと、レーシングドライバーの大湯都史樹選手※1 がFENNELさんと契約したことです。
FENNELさんはeスポーツ分野に興味のある人材にリーチする力があり、eモータースポーツに親しんでいる方々はリアルレースとの親和性も高く自動車業界への関心度も高いだろうと考えました。そして、今回の就活イベントを一緒にサポートしてもらう形になりました。
※1 北海道出身のレーシングドライバー兼eスポーツプレイヤー。2016年鈴鹿サーキット・レーシングスクールを主席で卒業。この年からFIA-F4選手権に参戦。2020年にはスーパーフォーミュラにステップアップして初勝利を挙げた。現在もスーパーフォーミュラへ参戦中。2025年4月にFENNELと契約し、リアルレーサーからプロeスポーツチームに加入した業界初の選手となる。
大湯都史樹選手
──営業担当の桑原さんからも、本イベントの開催を打診した背景をお聞かせください。
「e-Motorsports合同就職EXPO」を上野に打診した背景としては、「モータースポーツに興味を持つ学生が自動車業界で働く道を見つけやすくしたい」という思いがありました。
私自身、新卒当時はモータースポーツに強い関心があったものの、「どうすればこの業界で働けるのか」が全く想像できなかった経験があります。
そのような経緯から、FENNELさんと企画検討していく中で、同社がeスポーツ好きの学生コミュニティを持っていると知りました。そして、eモータースポーツからモータースポーツ業界につながるきっかけを作れるのではと考えました。
就活イベントは参加人数150名を超える大盛況
──今回のイベントは、就活イベントとしてなかなか類を見ない規模感ですが、来場された学生の印象やプロモーションで工夫された点について教えてください。
今回のイベントでは、モータースポーツや自動車業界に強い関心を持つ熱意ある学生が多く集まってくれたのが印象的でした。
プロモーション面では、FENNELさんが持つeスポーツに関心のあるユーザーリストを活用し、ターゲットに直接アプローチを行いました。また、会場のサーキットまでは距離があるので、バスでの送迎を行うことにしました。
当初は約100名の参加を想定していましたが、結果的に154名が来場し、予想を大きく上回る反響がありました。
また、来場者の半数以上は関東圏からの学生で、静岡県内や近隣地域からは自家用車で訪れる学生も2〜3割ほどいました。サーキットまで時間をかけて来場してくれること自体が、自動車業界やモータースポーツへの強い愛着を持っている証だと感じています。実際、感度の高い学生達が集まってくれたと思います。
──FENNELと協働するなかで期待されていることや今後やっていきたいことを教えてください。
今後もFENNELさんとの取り組みを継続し、eスポーツを通じてモータースポーツ業界への入り口をさらに広げていきたいと考えています。
現在は、シミュレーター技術の進化によって、ゲームをきっかけにモータースポーツに挑戦するという新しい入り口が生まれています。実際、『グランツーリスモ』の世界チャンピオンのイゴール・フラガ選手※2 が日本のトップドライバーとして活躍しているのが良い例です。
今後はゲームからリアルのレースに挑戦する選手がさらに増えると考えており、eスポーツプレイヤーに向けたアピールを強化していく方針です。
※2 石川県金沢市出身、ブラジル育ちのレーシングドライバー兼eスポーツプレイヤー。2018年にFIAグランツーリスモ チャンピオンシップの国別対抗個人戦部門「ネイションズカップ」にブラジル代表で出場し、初代王者に輝く。2025年からはNAKAJIMA RACINGよりスーパーフォーミュラデビューを果たし参戦中。
イゴール・フラガ選手
モータースポーツとeモータースポーツを「分ける」必要はない
──昨今の自動車業界は人材不足が叫ばれているかと思いますが、具体的に不足している人材や一緒に働きたい人物像のイメージはありますか。
現在の自動車業界では、特にAIや通信技術などの新しい技術を担える人材が求められていると考えています。
モータースポーツを含む自動車業界は今まさに転換期を迎えており、従来の「エンジンとタイヤと車体」というシンプルな組み合わせだけでは成り立たなくなっています。今後は技術革新に対応できるエンジニアや研究者が必要とされているんです。
一方で、こうした変化があるからこそ、学生たちは自動車業界の将来性に敏感で、昔ほど人気が高くないという話もよく耳にします。僕らの時代はトヨタやホンダが就職先として常に上位でしたが、今は状況が変わっています。
その中で、モータースポーツやeモータースポーツは、学生が車に憧れや興味を持つきっかけになるのではないでしょうか。実際にサーキットに来てもらえれば、新しい技術に挑戦している姿を知る良い機会になり、将来の人材不足解消にもつながる可能性があると考えています。
──eモータースポーツが好きな学生は、自動車業界の華やかな面を見ているイメージがあります。ただ実際に働くとなると泥臭い一面もあると思うのですが、そのギャップを埋めるにはどうすればよいでしょうか。
モータースポーツは、eモータースポーツとの親和性が非常に高い競技なので、必ずしも切り分ける必要はないと考えています。
実際、プロのレーシングドライバーもシミュレーターを使って練習していますし、eモータースポーツのトップ選手の中にはリアルのレースで表彰台に上がる人もいます。
例えばイゴール・フラガ選手がその代表例です。サッカーゲームが上手いからといってメッシのようなプレーはできませんが、モータースポーツはバーチャルの経験を活かせるスポーツなんです。
バーチャルとリアルの親和性が高いからこそ、華やかなイメージだけでなく現場の泥臭い一面にも自然と目が向き、結果的にそのギャップを埋めるきっかけになると考えています。
有名プロゲーマーや配信者コンテンツで「集客」をしなかった理由
──今回の「e-Motorsports 合同就職 EXPO」の成功を受けて、今後他の業界でも同様の企画が増えていくのではないかと考えました。参考までに、イベントを実施していくなかで課題になったことや苦労されたことを教えてください。
今回のイベントで課題となったのは、会場が静岡の富士だったため学生の移動手段をどう確保するかという点でした。
東京都内の会場であれば電車で移動できますが、今回は静岡の富士開催で、距離がネックになりました。そこで、三島駅と東京から2便のバスを手配し対応しました。想定以上の応募があったため調整にやや苦労しましたが、結果的には無事に対応でき、多くの学生に来場してもらえたので良かったと感じています。
また、今回のようにゲームで培った経験がリアルの就業機会に繋がるのは良いことだと思っているので、他の業界でもどんどんイベントを実施してほしいですね。
──eスポーツ関連のイベントに若い人たちを集客したい場合、有名なプロゲーマーや配信者を呼ぶという施策が取られることも少なくありません。しかし、今回それを実施されなかったのには何か狙いがあったのでしょうか。
今回は、有名なプロゲーマーや配信者を呼ぶ集客施策は行わず、サーキットに来て現場を体感してもらうことを重視しました。
例えばオートバックスさんが主催する「JEGT※3」のように、街のイベント広場でe
モータースポーツ大会を開催すれば多くの人を引きつけられると思います。しかし、その場合は大会を見てそのまま帰ってしまう来場者も多く、モータースポーツそのものの魅力や迫力を十分に伝えられない可能性があると考えました。
そのため今回は、若い人たちにレースの現場を間近で体感してもらい、モータースポーツの魅力を深く知ってもらうことを狙いました。
※3 株式会社オートバックスセブンがメインスポンサーを務める国内最大級規模のeモータースポーツ大会
走る楽しさは不変!eモータースポーツ業界に人を取られても良い
──最後にeスポーツメディアや読者の方に伝えたいことがあれば教えてください。
ぜひ、リアルなレースを見にサーキットへ来てほしいです。
正直、僕はeモータースポーツ業界に人を取られてもいいと思っています。モータースポーツとeモータースポーツ、どちらも「車を操る喜び」という部分においては共通なんです。
車で走る楽しさは不変だと思っているので、eモータースポーツで満足してリアルのほうに全く関心を持たないということはないと思っています。
イゴール・フラガ選手のようなeモータースポーツ出身のドライバーも増えてきたので、実際にレースを見てもらって、そういった人たちを応援してもらえると嬉しいなと思います。
──上野さん、ありがとうございました!
取材・文:小川翔太、松永華佳
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