【野々宮ミカさんインタビュー】「目標は世界大会でMC」eスポーツMCとしての努力と挑戦

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【野々宮ミカさんインタビュー】「目標は世界大会でMC」eスポーツMCとしての努力と挑戦

 eスポーツ専門の求人メディア「eek(イーク)」では、eスポーツに関するさまざまな仕事にフォーカスした記事をお届けしています。今回は、ゲームイベントやeスポーツ大会でMCを務める、野々宮ミカさんへのインタビューです。

野々宮さんは、さまざまなeスポーツ大会でMCやインタビュアーとして活躍。なかでも、『レインボーシックス シージ』(以下、R6S)では、日本公式リーグのメインMCを務めてきたほか、世界大会の舞台でコミュニティ賞を受賞するなど、コミュニティ活動も評価されています。

eスポーツ大会において、MCという仕事はどのような役割を担い、その裏側にはどのような努力や工夫があるのか。また、MCや実況解説といったeスポーツシーンの表舞台で、より女性が活躍するには何が必要なのか。野々宮さんのこれまでの活躍を紐解きながら、お話を聞いていきます。

アシスタントMCから始まり、『R6S』リーグでメインMCへ

――まず最初に、どんなきっかけからゲームに関連する仕事をするようになったのか教えていただけますか?


野々宮:

もともとグラビアアイドルをやっていて、そのときからゲームが好きだったのでYouTubeを始めたんです。そのころから、ゲーム関連のお仕事をいただくようになりました。

――これまでの主なゲーム歴を教えてください。


野々宮:

もともとF1が好きで、最初に触れていたのはゲームセンターにあるレースゲームでした。その後に、がっつりプレイしていたのが『モンスターハンター』シリーズ。FPSゲームで最初にハマったのは、『Call of Duty: Black Ops II』です。

そのころにYouTubeを始めて、いろいろなゲームをやっていくなかで、特に注目してもらえたのは『Dead by Daylight』でしたね。そこから、ゲームの番組に出演させていただく機会が増えていきました。

――そのころは、どういった内容での出演が多かったですか?


野々宮:

当時は、グラビアアイドルがゲーム番組にアシスタントMCとして出ることが多かったんです。最初に出させていただいたのは、『HIDE AND FIRE』というモバイルゲームの番組。オーディションで受かって、岸大河さんがメインMC、私がアシスタントMCという形で、3年ほど出させていただきました。そのほかにも『黒い砂漠』など、モバイルゲームの番組でMCをやらせてもらうことが多かったですね。

それから、Ubisoftさんの『ザ クルー2』というレースゲームのイベントで、MCをさせていただいたこともありました。そのとき『R6S』をすごくプレイしていて、Ubisoftさんにその話をしたんです。それがきっかけで、『R6S』の「R6祭」というオフライン大会でアシスタントMCをさせていただきました。

――その後、『R6S』公式リーグの「Rainbow Six Japan League」(以下、RJL)から、メインMCを務めるようになったのでしょうか?


野々宮:

RJLでは、最初はMCではなくインタビュアーという立ち位置でした。そのころは、女性がメインMCをやることがあまりなかったんですよ。男性がメインMCで、女性がアシスタントMCとして入る形が基本でした。

そのとき、RJLではオープニングのスポンサー読みやルール説明などを、実況解説の皆さんがされていたんですね。それがなかなか大変だということで、実況解説の皆さんが「野々宮さんがMCをやるのはどうですか?」と提案してくださったんです。それで、2年目からMCというポジションになりました。
『R6S』のさまざまな大会でMCやインタビュアーとして活躍


徹底したリサーチのうえで本番を迎える、MCとしての仕事

――eスポーツ大会におけるMCの仕事では、どのような準備を経て本番を迎えるのでしょうか?


野々宮:

eスポーツのリーグであれば、去年の試合を全部見ます。ゲームへの理解はもちろん必要ですが、MCがインタビューをすることも多いので、選手のこともかなり調べます。移籍情報をはじめ、どんな雰囲気のチームでどんな選手なのか、一人ひとりのSNSをチェックしていますね。

キャスターを含め、共演する方々のことも調べます。普段どういった活動をされていて、どんなキャラクターの方なのか。番組の雰囲気をつくっていくにあたって、そういったことを知っておくことが重要なんです。

当日も1人で楽屋にいるのではなく、できる限り出演者の皆さんと同じ場所にいて、コミュニケーションを取って会話しやすくしています。主催者のゲーム会社の方々とお話しするなかでも、最も伝えたいことが何なのかを引き出して、そこを重点的に伝えていくようにもしています。

――徹底的にリサーチして準備されていると。特に去年の試合を全部見るとなれば、相当な時間がかかりますよね。


野々宮:

ものすごくかかります。リーグであれば、2~3週間くらいかけて準備します。ただ、実況解説ではないので、そのゲームや試合にくわしいだけなのも、またちょっと違うと思うんですよね。MCとして重要なのは、雰囲気づくりだと思うので、どういった視聴者の方々が見ているのかも意識して準備しています。

――お話を聞いていると、コミュニケーション力もかなり求められそうです。


野々宮:

コミュニケーション力はかなり必要だと思います。ゲームの知識がいくらあったとしても、人に伝える力がなければ難しいですね。番組の冒頭はMCから始まるので、そこが滑ってしまうと、視聴者の方が入り込みにくい。オープニングから引きつけられるかという部分でも、伝える力が求められていると思います。

本番前の打ち合わせでも、シリアスにいきたいのか、盛り上げる雰囲気がいいのかを確認して、番組の入りの部分での声質を変えたりしています。オンライン大会なのか、オフライン大会なのかでも変わりますね。それぞれのリーグに合わせて、自身のMCとしての立ち位置やキャラクターも考えています。

――たしかに番組の冒頭となれば、雰囲気を大きく左右する部分ですね。


野々宮:

そうなんです。だから、第一声は特に気にしていますね。日本では男性が実況解説やMCをすることが多いので、あまり女性の声のMCに慣れていない視聴者の方が多いと思うんです。なので、冒頭はテンションを上げつつも、かっこよく低めの声で入ったりします。

MCはオープニングのほかに、試合後やエンディングで出ることが多いですが、そこで急に女性の高い声が入ってくると、視聴者の方にとって違和感になることもあります。なので、特にeスポーツのMCでは、高い声を出さないように意識していますね。

“全選手のファン”として熱量を全面に出していくスタイル

――ほかにも、MCをするうえで工夫されていることや意識していることはありますか?


野々宮:

どんなに上手いMCの方でも噛むことはあるので、噛んだとしても言い直して、しっかり伝えることを意識していますね。皆さんに「届け!」という気持ちでやっています。

あとは、自分の知識をひけらかさないことでしょうか。知っていることでも、あえて質問して実況解説やアナリストの方々に話してもらうようにしています。例えば、「前もこんなことがありましたね」と言われたら、「いつの試合でしたっけ?」と聞いてみたり。その配信を初めて見る視聴者さんもいるので、毎回知らない人の目線に立って、どんな人も置いていかないように意識しています。

――先ほど声の話がありましたが、発声などの部分についてはいかがでしょうか?


野々宮:

MCとしての仕事を始めたときは、最初に抑揚の付け方や滑舌、声の出し方などを習いに行きました。特にリーグは長い期間続くので、声を枯らさない話し方を学んだりもしましたね。

今はeスポーツ業界にもアナウンサーの方々がたくさん入ってきて、発声や話し方の面でクオリティがすごく上がっているので、そこに追いついていかなければなりません。ただ、それだけではなく、バラエティなど今まで自分がやってきたことを活かして、いかに自分のMCとしてのポジションをつくっていくか、ということを大事にしてきました。

――ご自身のMCとしてのスタイルを言い表すと、どんなスタイルでしょうか?


野々宮:

私はゲームはもちろんなのですが、eスポーツが大好きなので、とにかく選手ファーストなんです。どうしても一つひとつの試合に熱が入ってしまうので、むしろその熱を全部出していこうと考えました。選手よりも先に、私が泣いちゃうくらいなので(笑)。選手たちがいかに頑張っているかを伝えつつ、自分の熱量も表に出すようにしています。

選手からの言葉を最大限に引き出すために、MCやインタビュアーとして、全チーム全選手のファンになるイメージです。世界大会だったらもちろん日本チームの応援団になりますし、日本リーグだったら選手一人ひとりの応援団になる。それが私のスタイルかなと思います。
ブラジルで開催された「RE:L0:AD 2025」でも、日本チーム「CAG OSAKA」を全力応援
感情豊かに日本チームを応援する姿は、大会配信にもたびたび映し出された

――改めて、eスポーツ大会のMCとして感じる仕事の魅力ややりがいは何でしょうか?


野々宮:

青春ですね。人と一緒に何かに熱中できることって、大人になるとなかなかないと思うんですよ。でも、チームや選手を応援しながら、喜怒哀楽をともにして青春を味わえる。やっぱり選手たちが喜んでいる姿を見るのが嬉しいし、それが私のやりがいですね。

MCは誰かのために動く仕事で、選手だったり実況解説の方々だったり、そういう頑張っている人たちをより輝かせられる職業だと思います。そういった部分で、誰かのためになったなと思えたときにも、すごくやりがいを感じます。

――逆に、MCとしてつらいことや大変なことは何ですか?


野々宮:

自分は楽しくやっているので、つらいと思うことはないですが、「MCって台本を読むだけの簡単な仕事でしょ」と思われることが多くて、実際にそう言われることもあります。たしかに、ただ台本を読むだけだったら、誰でもできる仕事だとは思います。だからこそ、「この人でなければダメだ」と思われるところまでいくのが、一番大変なことだと思いますね。

その後に大きくつながった、海外での“突撃インタビュー”


――今年は『R6S』の世界大会でコミュニティ賞を受賞されました。赤い着物でステージに登場する姿がとても印象的でしたが、改めて受賞理由を教えてください。



野々宮:

「野々宮カスタム」というコミュニティ大会を主催して、賞金を出したりオフライン大会を開いたり、女性大会も積極的に開催したりして、日本のコミュニティを盛り上げる活動をしてきたところを評価していただけました。

それから、AZAMIのコスプレをして、海外のコミュニティの皆さんともいろいろなコンテンツをつくれたことも大きかったです。日本人の女性が日本人オペレーターのコスプレをしているということが印象的だったと思いますし、日本のコミュニティのアイコンとして注目してくださったのかなと思います。
アメリカで開催された「BLAST Six Invitational 2025」のステージでコミュニティ賞を受賞

日本の『R6S』コミュニティのアイコンとして、華やかな赤い着物で登場

――そういった活動は、MCから離れた個人の活動ですよね。どういった思いで活動されてきたのでしょうか?


野々宮:

『R6S』が好きだから、日本の『R6S』コミュニティをもっと盛り上げていきたいし、コミュニティの皆さんともっと深く関わっていきたいという思いで活動してきました。きっかけは、公式リーグでMCをやらせていただいたことが一番で、そこでコミュニティの方々から認知してもらったことを活かして、どうやったらもっと盛り上げられるだろうと考えたんです。

配信を頑張っている方々もいるし、eスポーツ以外の部分で楽しんでいる方々もいるし、いろんな人たちにフォーカスを当てたいと思って、コミュニティ大会を開いてきました。自分が立たせてもらった立ち位置でできることをやって、それに皆さんが協力してくださったことで上手くいったので、本当にコミュニティの皆さんのおかげだと思っています。

――『R6S』では世界大会に行って、現地インタビューや現地ウォッチパーティをするなど、さまざまなチャレンジもされていますよね。


野々宮:

最初に海外に行かせていただいたのは、「BLAST R6 Major Atlanta 2023」のときでした。現地では、日本チームにインタビューしていたのですが、残念ながら日本チームが敗退してしまったんですね。それで、どうしようかと考えて、日本チームと戦った相手チームに突撃インタビューしに行ったんです。出待ちして、いきなり「インタビューしていいですか?」って(笑)。

今後の日本の『R6S』競技シーンのために、何か少しでも手がかりになったらいいなと思って、そこで「日本チームと戦ってどうでしたか?」といった内容でインタビューしたんです。ありがたいことに、この動画をたくさんの方が見てくださったことで、だんだん公式なインタビューの場を用意してもらえるようになっていきました。
ブラジルで開催された「Six Invitational 2024」では、現地会場でウォッチパーティを実施

――用意された場ではないインタビューで、しかも世界大会で海外チーム相手にするというのは、かなり度胸が必要なことだと思います。


野々宮:

世界に行かせてもらうって、すごいことだと思うんですよ。せっかく現地に行かせていただいたからこそ、試合を見るだけじゃなくて「何か一つでも持って帰ろう、怒られたら怒られたでいいや」という気持ちでした。今だったら慎重になってしまいそうですが、あのときは最初だったので。試合もそうですが、何事も挑戦者が強いなと思います。

――その後、世界大会の現地でのさまざまな活躍につながったわけですが、もしそのときの突撃インタビューがなかったら……。


野々宮:

何もなかったんじゃないかと思います。ただ一度、海外に行って終わっていたんじゃないかなと。海外に行かせてもらったときは、自分に何ができるかを考えて、できることをやっています。なので、現地では誰かしらとずっとコミュニケーションを取るようにもしていますね。
「Six Invitational 2024」では、メディアルームで数々の有名海外チームにインタビュー

なかなか女性の活躍が進まない、eスポーツの実況解説やMC


――先ほど、日本の配信では実況解説やMCを男性が務めることが多いという話がありました。今もそういったポジションに女性が少ないと思いますが、これについてはどう感じますか?


野々宮:

特に実況解説においては、現状は女性の実況解説が確立されていないうえに、視聴者の方々も男性の実況解説に慣れているので、違和感を感じてしまう部分も大きいと思います。そこの違和感を払拭できるような方が出てきたらもっと変わると思いますが、そこまでいくのが難しいですよね。

――海外のeスポーツシーンでは、MCだけでなく実況解説にも女性が多く起用されていますよね。


野々宮:

そうですね。そして、レベルが高いです。知識があるのはもちろんのこと、その人のスタイルが確立しているんです。日本は、“実況解説はこうあるべき”という考えがあって、似たスタイルになりがちだと感じます。でも、海外の女性キャスターたちはそれを取っ払って、自分のスタイルで突き抜けていった結果、それが受け入れられている印象があります。

実況解説もMCも、男性がやっていることを同じように女性がやったとしても、すでに高いレベルで確立されたものがあるので、別に「今のままでいい」と思われてしまいます。今まで男性がやってきて、しっくりきているところに女性が入るとなると、何か変化球がないと難しいですよね。

それは、私がMCをするときにすごく考えていることです。例えば、いじられるMCってあまりいないじゃないですか。なので、場面によっては、いじられるMCや愛されるキャラクターでいようとか。それは、共演するキャスターの方々のおかげでできていることでもありますが、そういったことは意識しています。

――日本でももっとeスポーツの表舞台に女性が増えてほしいと思いますか?


野々宮:

すごく増えてほしいと思っています。でも、もちろん難しいことも理解しています。それにはやっぱり、固定化されてしまっているものを壊していける個性が必要ですよね。女性だからこそ、それを個性の一つとして活かしてできることもたくさんあると思います。

――海外のeスポーツシーンでは、女性の活躍が後押しされていると聞きました。


野々宮:

海外のゲーム会社さんは、男女平等の考え方が前提にあるので、女性も積極的にキャスティングしているんです。eスポーツに限らず、スポーツでもそうだと思います。海外では、インタビュアーやMCというポジションをつくり、そこに女性を起用したりしているのですが、日本では実況解説の方がそれらの役割を兼ねていることが多いですね。

――そう考えると日本はより難しい環境ですが、それでも抜てきされるような個性が必要だということですね。


野々宮:

そう思います。難しいですが、何か群を抜いてプラスな部分があれば、絶対にキャスティングされると思うので。「憧れのこの人みたいになりたい」ではなくて、自分の武器を最大限に活かすことが必要だと思います。

目標は“世界大会でMC”、日本と世界をつなぐ架け橋に


――野々宮さんが掲げる目標や、今後叶えたいことはありますか?


野々宮:

今後の目標は、世界大会でMCをすることです。理由は、まだそれをやった日本人がいないから。日本は英語が苦手な人も多くて、海外との距離があると思うんです。日本は良くも悪くも、日本だけで生きていけるじゃないですか。でも、もっと海外から日本に注目してほしいし、日本からももっと海外を見てほしいと思っています。

選手たちは、世界で1位を取るために頑張っている。それなら、私は日本と世界のコミュニティをつなげる架け橋として頑張ろうと思ったんです。だから、コミュニティ賞を受賞したときも、日本の文化である着物を着てステージに立ちました。

eスポーツは、世界とつながる近道だと思っています。eスポーツプレイヤーは、プレイが上手くて英語ができたら海外に行けますよね。日本のチームだけでプレイしようとするのではなく、海外のチームまで視野に入れて頑張ってほしいという思いがあります。それと同時に、世界からも日本のeスポーツシーンにもっと目を向けてもらいたい。その一つのきっかけとして、私は世界大会のステージでMCをやりたいと思っています。

――それを実現するためにも、英語を勉強されているということですね。


野々宮:

今ちょうど1年くらい勉強していて、インタビューはできるようになってきました。でも、まだ通訳などは難しいので、もっと頑張らなきゃいけないと思っていて、留学も考えています。

英語だけでなく、中国語や韓国語といった他の言語もできれば、いろいろな部分でもっと仕事が増えていくと思うんですよ。そういったところも視野に入れつつ、まずは世界大会でMCをするという実績を解除したいですね。

――それでは最後に、eスポーツ業界で働きたい人に向けてメッセージがあればお願いします。


野々宮:

eスポーツの仕事は、大変ではあると思いますが、ものすごくやりがいがあります。eスポーツが好きだったら、ゲームやコミュニティの知識を活かせますし、選手たちもみんな熱量を持ってやっているので、一緒に熱量を持って働けると思います。

eスポーツの大会は、みんなで一丸となってつくり上げていくもので、一人ひとりが主人公になれる場所です。例えば、制作においても音響さんやカメラさん、オブザーバーさんといった役割の誰が欠けてもダメで、一人ひとりの役割がきちんと果たされてこそ出来上がるもの。そういうところで頑張ってみたい人は、ぜひチャレンジしてほしいです。

――野々宮さん、ありがとうございました!


取材・文:綾本ゆかり