「エンタメ」と「競技」の“二刀流”に挑む、国内屈指のeスポーツブランドRAGEプロデューサーに訊く── 1万人規模のeスポーツ大会は、どう設計されているのか

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「エンタメ」と「競技」の“二刀流”に挑む、国内屈指のeスポーツブランドRAGEプロデューサーに訊く── 1万人規模のeスポーツ大会は、どう設計されているのか

普段は表に出てこない「eスポーツを盛り上げる裏方さん」とぶっちゃけトークを展開する【eekインタビュー】、ついにRAGEプロデューサーが登場。

日本発のeスポーツイベントブランドRAGEは、破竹の勢いで「ギネス記録」「最高入場者数」「最高同接数」などの数々の新記録を達成。競技イベントは勿論のこと、エンタメとしてもチケットの有料化、PPVなど、eスポーツイベントの新境地を開拓している。

「流行」と「ニーズ」が目まぐるしく変化するeスポーツ。

その中でRAGEは、いかにして「時代」に応答し続けているのだろうか。

RAGEプロデューサーの菅原大希氏(株式会社CyberZ、株式会社CyberE)に話を聞いた。

今回の取材は「RAGE Shadowverse Japan Championship 2026 Season 2」(インテックス大阪)で実施しました。
お時間をいただきましてありがとうございました!



eスポーツイベントの有料化は「前例がなかった」


──御社は「RAGE Shadowverse」のような「競技志向」のeスポーツイベントだけでなく、「VSPO!SHOWDOWN 2026 powered by RAGE」のような「エンタメ志向」のイベントも手掛けています。後者ではチケット代が1万円を超えることも当たり前になってきました。それぞれタイプが異なるかと思いますが、どのような難しさがあるのでしょうか。


最も難しいのは「お金を払う」に値する付加価値をどう作るかです。

コロナ明けに開催した「RAGE VALORANT 2022 Spring」は、弊社としては初めての有料イベント(指定席:¥3,500~¥6,500)でした。

当時は周囲からも、「前例が無いので難しいのではないか」というご意見を多数頂戴しましたが、結果として、事前のチケット販売が数時間で完売。当日の総来場者数は13,000人を超えることができました。

当時は「ストリーマーに会いに行くためにお金を払ってもらう」という価値観を一般化したいという想いで奔走していたように思います。

──当時の「RAGE VALORANT 2022 Spring」は日本における有料eスポーツイベントとして、史上最多の動員数を記録しました。


はい。ただ、もう同じ手法は通用しなくなっていて、今はストリーマーさん自身が自分たちで商売できるようになってきました。

ストリーマー系のイベントは私たちも3~4年前から実施してきていますが、昨今では一般的になってきていますし、ストリーマーさん自身が考えたコンテンツを形にするイベントが多くなってきたからこそ、RAGEとしては「私たちだからできる付加価値をどう作るか」を日々考えるようにしています。

東京ガーデンシアターで開催された「RAGE VALORANT 2022 Spring」
引用:https://rage-esports.jp/news/271/



──やや脱線してキャリアの話になってしまうのですが、菅原さんは、前職が営業職でした。営業ならではの目線があることで、発案できた付加価値や企画などはあるのでしょうか。


スポンサーさんの存在がものすごく大事だという意識を強くもっています。。現状、チケット代だけで制作費がすべて賄えるわけではないので。

例えば、メーカーさんであれば、彼らのマーケティングにどう効果を出せるかを考えながらコンテンツを作るようにしています。本番2日間ではマーケティングにおけるインプレッションが足りないとなったときに、練習配信もコンテンツとして宣伝の機会にさせていただいたことなどが挙げられます。

──ファンの望んでいるイベントとスポンサーの望んでいるイベントは必ずしも同じではないと思います。折衷案を見つけるのに苦労した過去のイベントはありますか。


おっしゃるとおりでして、正直、どのイベントでも折衷案を見つけることには苦心しています。全ての要望が通ることはないので、お客様、スポンサー様、IPホルダー様の「三方よし」には、常に取り組んでいます。

競技イベントでも必要なのは徹底した「オープン化」


──先ほどは「エンタメ志向」のイベントのお話だったかと思います。一方「RAGE Shadowverse」の「競技志向」のイベントについてはいかがでしょうか。時代に合わせて、規模やコンセプトも変わってきたかと思いますが、どのようなことを意識していますか。


いま意識しているのは「裾野を広げる」です。

これまでのRAGE Shadowverseでは、競技性にこだわってきました。

しかし、新規のユーザーが入ってこないとゲームもコミュニティも縮小してしまうので、新作の『Shadowverse: Worlds Beyond』(以下、シャドバWB)になってからは、Cygamesさんと相談のもと間口を広げることを新たな方針として意識しています。

──実際、シャドバWBからは復帰勢だけなく、新規勢も増えた印象です。その新たな層にイベント側も対応していく必要があると。


おっしゃるとおりです。

また、これは基本的なことではあるのですが、運営面において「選手に迷惑をかけないこと」の意識をより強めています。

2025年9月に開催された「RAGE Shadowverse Japan Championship 2025」では、参加者の皆様に大変ご迷惑をお掛けしました。

その後、2026年4月の「RAGE Shadowverse Japan Championship 2026 Season 1」では、Cygamesさんに開発いただいたツールのチェックインシステムを導入して、運営面の改善を実施。加えて、公式SNSでの投稿、会場内でのアナウンスも、これまでより細かく、初めて参加される方も分かりやすく発信するようにしています。

──確かに、今回の「RAGE Shadowverse Japan Championship 2026

Season 2」関係の案内でも、インテックス大阪(今回の会場)への「行き方の動画」が公式SNSで発信されていたり、諸々のアナウンスの文面も「事務的」なものではなく、親しみのある内容になっているように感じました。

以前、私自身も感じていたことではあるのですが、eスポーツの大会など新しいコミュニティに参加することに「怖い」というイメージを持っている方もいます。

だからこそ、初めて来た方でも困らないよう、物理的かつ心理的なハードルを下げる工夫に全力を注いでいます。

「RAGE Shadowverse Japan Championship 2026 Season 1」でいただいた様々なご意見や反省を踏まえ、「RAGE Shadowverse Japan Championship 2026 Season 2 大阪」から、できるだけ会場内の壁を撤廃して、開放感を与えるなど、細部まで設計を見直したのもそのためです。

「RAGE Shadowverse Japan Championship 2026 Season 2 大阪」
区間ごとのパーテーション(間仕切り)が極力、撤廃されて開放感があった



従来のRAGEシャドバは競技のための大会という設計でしたが、いまのRAGEシャドバは、Cygamesさんで実施されたフェス的なコンテンツやガールズバトルフェス、インフルエンサーの方とのミートアンドグリートなど、サイドイベントを充実させました。

また物販も強化して、シャドバが好きで来てくれた方に楽しんでもらえるようにしています。

配信の「画作り」も、抜本的に変えています。実況・解説の席をクローズドな場所ではなく、会場の一角に設置することにしました。他のeスポーツタイトルの大会ではお客さんを映すことも多いので、会場の雰囲気を伝えるために採用しました。

「RAGE Shadowverse Japan Championship 2026 Season 2」
現場の雰囲気が伝わるように実況・解説席を会場内に設置



企業主催の大会とコミュニティ大会、それぞれの役割


──最近ではコミュニティ大会も増えてきています。そういった有志団体が運営するコミュニティ大会についてはどう捉えていますか。


別物だと捉えています。コミュニティ大会はスタッフさんがボランティアで運営されていることが多く、ビジネスの線引きが難しい部分があります。

そういう意味では、役割が違うと考えています。私たちは、イベントにIPホルダー様のゲームをお借りしているので、そのゲームを「もっと多くの人に遊んでもらう」という外に向けたコンセプトが必須になります。

──昨今はコミュニティ大会の規模とクオリティが上がってきたことによって、やや企業側のイベントの旗色が悪くなっているというか。直近でも格闘ゲームの大規模な企業イベントで「コミュニティ」に寄り添い切れていない事例もありました。どのように感じますか。


前提として、少なくとも私自身としては「全てにおいて企業の大会がコミュニティ大会よりも優れている」とは考えていません。

有志の団体さんは、私たちにできないスピード感で企画を推進できます。私たちのように、IPに近い立場になるほど、必要な線引きも増えてくるので…。

その点においては(コミュニティ大会の)「自由度の高さ」は羨ましいと思うこともありますが、コミュニティ大会を運営する方々も様々な「制限」の中で苦心されているかと思いますので、そこはお互いに立ち位置が異なるものとして、それぞれのメリットを活かすべきだと考えています。

──「外向き」のコンセプトを実現するうえで、企業ならではの強みというのは、どのようなところに出てきますか。例えば、今回の会場であるインテックス大阪は他のeスポーツタイトルでも開催実績のある会場でした。このような会場に関するノウハウの蓄積も強みの1つなのでしょうか。


企業による運営の強みとしては、会場に関するノウハウもその1つです。長年の関係性があることで会場を確保しやすい点もあります。

東京の大きな会場は、取れない状況が続いていて、大阪も取りづらくなってきています。これまでの「ご縁」で融通を利かせていただけるのは、企業としての強みといえるでしょう。

──御社は様々なeスポーツタイトルを横断してイベントを企画しています。そういった経験から得た「他のeスポーツでは当たり前のこと」を他のタイトルに持ち込めるというのは、大きな強みなのでしょうか。


そうですね。昨今では業界全体で盛り上げていこうという流れになってきています。参考にできるところは参考にしていこうというスタンスですね。

そういう機運は、弊社としても好都合です。

eスポーツ全体としても、他のライブエンタテインメントの良いところを取り入れていく必要がある。例えば、エンタメ業界では当たり前になっている物販チケットの整理券システムは、eスポーツのイベントでは整備が進んでいませんでした。

他業界のノウハウが、eスポーツイベントでも少しずつ取り入れられてきています。

サイバーエージェント系の採用基準「素直でいいやつ」とは何か


──御社のような、eスポーツのイベント企画・運営に興味を持つ方は増えている印象です。どのような方と一緒に働きたいと考えていますか。


1つ目は親会社である、サイバーエージェントの採用基準、社風として知られる「素直でいいやつ」であること、2つ目は「​​自分に関わるものを好きでいれること」です。

「素直であること」は、サイバーエージェント全体でも、ずっと言われ続けていることです。仕事である以上、うまくいかないこともありますが、それを受け止めて、前向きで明るいことが、何よりも大事だとされています。

2つ目の要素は、新しい分野で知識が追いついていなくても「好きだから勉強しよう」と努力ができるような方ですね。

──「素直でいいやつ」というのは、後天的に養えるものなのでしょうか。


教育で身に付けさせられるものではありませんが、本人の努力次第で養えるものではあると思います。

私たちの仕事は、IP、お客様、スポンサーさん、多くのステークホルダーが関わります。

どこか1つだけ良くてもダメで、全員の気持ちを理解しようとし続ける必要がある。その点においても「素直でいいやつ」というのは重要だと考えています。

──中途採用に関しては、どのような前職の経験の方がマッチすると思いますか。


専門性よりも「何かを頑張ってやり抜いた経験があるか」が重要視されているように思います。

私自身、はじめはeスポーツに詳しくない中で、いまのキャリアがスタートしたので、専門性よりも、何か一つでも、一生懸命やり抜いた経験のほうが、弊社で働く上で力になるでしょう。

一度でも挫折した経験や、やり切ったと思えるぐらい、何かを突き詰めた経験がないと、仕事において、いろんな人の話に腹落ちがしないんじゃないかなと思っています。

──お話を伺っていると「素直でいいやつ」というのは、ただ単に従順ということではなく、酸いも甘いも知ったうえで、他者の気持ちに寄り添えて、周囲のアドバイスや時代の変化を柔軟に受け入れ、前向きに成長できる人材ということなのかもしれないと感じました。本日はありがとうございました!

取材・文:小川翔太、松永華佳