【インタビュー】局アナからeスポーツキャスターへ!平岩康佑さんの挑戦と軌跡
eスポーツ専門の求人メディア「eek(イーク)」では、eスポーツに関するさまざまな仕事にフォーカスした記事をお届けします。第8回は、元朝日放送テレビのアナウンサーであり、現在は株式会社ODYSSEYの代表取締役、eスポーツキャスターとして活躍する平岩康佑さんです。
先日、待望の日本開催が決まった『Apex Legends』の世界大会「ALGS」。
ますます盛り上がる国内の『Apex Legends』、平岩さんも国内シーンを実況者として盛り上げるひとりです。
平岩さんは、法政大学法学部を卒業後、朝日放送テレビに入社、スポーツ実況やバラエティ番組の司会を務めた後、2018年に同局を退社。その後、自ら会社を経営されながら、eスポーツ関連のイベントや番組制作に携わっています。
今回は「eスポーツのキャリアを目指したきっかけ」「自身の仕事内容」「どういう人がeスポーツの仕事に向いているか」「転職について」を中心に伺いました。
先日、待望の日本開催が決まった『Apex Legends』の世界大会「ALGS」。
ますます盛り上がる国内の『Apex Legends』、平岩さんも国内シーンを実況者として盛り上げるひとりです。
平岩さんは、法政大学法学部を卒業後、朝日放送テレビに入社、スポーツ実況やバラエティ番組の司会を務めた後、2018年に同局を退社。その後、自ら会社を経営されながら、eスポーツ関連のイベントや番組制作に携わっています。
今回は「eスポーツのキャリアを目指したきっかけ」「自身の仕事内容」「どういう人がeスポーツの仕事に向いているか」「転職について」を中心に伺いました。
eスポーツのキャリアを目指したきっかけ
――ご著書を読ませていただきまして、ご自身がeスポーツのキャリアを目指したきっかけは「2018年に韓国でLoLの試合を観戦したとき」とのことですが、そのときのことを詳しく教えてください。
2017年の冬頃にゲーマーの友人から「いまeスポーツが盛り上がっている」と聞いて、実際の様子をみるために韓国に行きました。現場を見た時に「自分にはこれしかない!」と感じました。
帰国した次の日に、朝日放送テレビに退職届を出しましたね。
テレビ局時代から実況の仕事は好きだったのですが、野球やサッカーの実況にはあまり興味が持てませんでした。
一方、ゲームは毎晩朝までFPSを遊んでいるぐらい好きだったので「ゲームの実況仕事なら自分がやるべきだ、他の人にやられるのは嫌だ」と考えるようになりました。
(実況で)賞を取った経験もあり「ゲームの実況は絶対できる」と自信がありました。
――いまでこそテレビ局アナウンサーの脱サラは増えてきましたが、2018年当時はアナウンサーの独立というのは、珍しいことだったように思えます。
そうですね。特に男性アナウンサーでフリーになる方は少なかったです。
だからこそ、当時は(私の独立に関して)いろいろなメディアで大きく取り上げていただきました。最近では、フリーになる後輩アナウンサーが増えてきているので、いま独立していたら当時ほどは注目が集まらなかったでしょう。
独立したときも不安はなく、「早く会社を辞めないと、eスポーツ実況者というポジションを誰かがやってしまう!」というのが怖くて、夢を見ることもありました。
当時、テレビ局からは「辞めるのは少し待ってほしい」と言われましたが、 僕としては「1日でも早くやらないと!」という気持ちがあったので、あまり後先は考えていなかったです。
――ご自身としては「遅すぎた」という感覚だったのですね。
そうですね。また当時の国内のeスポーツシーンでは、必ずしも「喋りのプロ」が実況を担当されているわけではありませんでした。
そこで、私たちのような、喋りのプロが組織を組んで「複数のeスポーツ大会に出演する」ことによって、国内のeスポーツキャスターのレベルを一気に引き上げられると考えました。
そういった想いを持って、柴田という静岡からの後輩アナウンサーとともに、株式会社ODYSSEYをスタートしました。
ご自身の仕事内容について
――貴社の仕事内容について詳しくお聞かせください。
弊社の仕事は多岐にわたります。
まず主軸は「キャスターのマネジメント事業」です。これには私、平岩自身もマネジメント対象に含まれます。
次に「代理店事業」で、大会の主催や企画、スポンサー営業を行っています。
直近では、YouTube Japan様とRiot Games様と一緒に実施する『VALORANT』の大会(KOREKARA VALORANT)や「CRカップ(Crazy Raccoon Cup)」が挙げられます。
加えて「キャスティング事業」も手がけています。例えば「同時接続数を増やしたい」「登録者数を増やしたい」「SNSでいいね数を取りたい」「売上を最大化したい」など、クライアントによってKPIは異なります。
その要望をヒアリングした上で「誰をキャスティングすべきか」「どういうイベント・企画にすべきか」を提案しています。
こういった全方位のお手伝いができるのも、私たちが演者として多くのイベントに出演して、制作会社や代理店との仕事を数多くしているからです。弊社全体で、年間600ぐらいのイベントに出ています。
その経験もあって、台本やキャスティングを見た時に、最終的な数字やイベントの成否の見通しが立てられるほどになりました。
現場の空気感を知りながらも、業界全体をマクロに見られるのが、私たちの最大の強みですね。また私自身、プロデューサー的な立ち位置も得意なので、そういう面でもスポーツ業界に貢献できたらと思っています。
――これまでの仕事で特に印象に残っているものは何でしょうか。
「IGL MASTERS」という、弊社所属のeスポーツキャスター大和周平が主催した『Apex Legends』の企画が印象に残っています。
プロの選手をシャッフルして、新たな組み合わせで戦うカジュアル大会なのですが、視聴者数の数字も良くて、同接数も高かったんです。
もともと『Apex Legends』は「CRカップ」や「エペ祭り」などの、ストリーマー同士のイベントや大会が主流になっていて、プロゲーマーを主軸にしたイベントでは、あまり数字が取れない傾向にありました。
プロの選手だけの大会で、ここまで数字が取れるのは当時はじめてのことでした。
――確かに『Apex Legends』関連のイベントはVtuberやストリーマーとのコラボ企画の印象が強いです。
はい。ストリーマーの方々は数字面での貢献度は高いものの、色々なゲームをやるのが仕事なので、1つのゲームの発展に寄与し続けてくれるわけでありません。
「IGL MASTERS」は3年前から開催しているのですが、現在では『Apex Legends』の公式大会に次いで大きい視聴者数を抱える競技コンテンツに成長しています。
選手たちの力でイベントの数字が伸びるのは、そのゲームのシーンの繁栄に直結します。
私たちも『Apex Legends』の選手たちが、本当に頑張っているのを知っているので、(視聴者数という)結果を出せた時は本当に嬉しかったです。
また現在は、弊社で「選手を紹介するYouTubeチャンネル」も運営し始めて、まだ登録者数は2万人弱ではあるものの、多いもので1本の動画で10万再生ぐらい回ります。選手たち個人の影響力も増していて、配信の同時接続数数がすごく伸びています。
選手たちの活躍があって、シーン全体が成長しているのは言うまでもありませんが、『Apex Legends』に関しては、弊社の活動が競技シーンの発展や選手の露出に貢献できている自負があります。
どういう方がeスポーツの仕事に向いているか
──どういう方がeスポーツの仕事に向いていると考えますか。
eスポーツ業界で従事する方は基本的にゲームが好きだと思うので、言うまでもないかもしれませんが「ゲームが好きである」ことは大前提ですね。
加えて、この業界で仕事をするのであれば、eスポーツ以外のエンタメやビジネスの基礎を知っているほうが良いです。
例えば企画を提案するときに「予算をどう使ったら一番効果的か」など、ゲーム以外の知識も必要になります。
――その他、eスポーツ業界で働くにあたって、必要なスキルはありますか。
コミュニケーションのスキルです。
あとは全く別の業界で経験を積んだあとに、eスポーツ業界に参入するほうが、人材として重宝されるかもしれません。
結局のところ、現時点でeスポーツの労働市場で価値が高いのは「とにかくゲームが好き」かつ「他業界での経験が豊富な人」なんですよ。
「ゲーム以外のことにも1つ専門分野がある」ぐらいが理想かもしれません。
現状、eスポーツの業界内では、人材育成のノウハウがまだ確立されておらず、eスポーツ業界が優秀な人材を生み出せる状況ではないので。
とはいえ「eスポーツが儲かってそうだから」とか「これから伸びそうだから」という理由だけで入ってくるのはオススメしません。ゲームが好きじゃないプロデューサーがやってるイベントは絶対うまくいかないですから。
ゲーム好きな人がトップに立つと、やっぱりうまくいくんですよね。
例えば「CRカップ」のオーナーのおじじ(高野大知氏)は起業する前は焼肉屋やラッパーなど、さまざまな仕事を経験しながら、それでもゲームが好きで、2018年にプロゲーミングチーム「Crazy Raccoon」を立ち上げました。
彼のようにゲームが好きで他の分野でも経験がある人は成功しやすいです。
決して(「ゲームだけに注力する」と)視野を狭めるのではなく、ゲーム以外のことにも興味・関心を持つべきだと考えます。
「転職を検討している人たち」に向けて
――転職を検討している方々に向けて、メッセージをいただけますでしょうか。
転職をする際は、転職後の環境で「うまくいく自信があるかどうか」が一番大事ですね。
事前に「自分が次の会社に移った時に何ができるか」を考えて、収入などを細かくシミュレーションして、それでも行きたいのであれば転職した方がいいと思います。
私も局アナを辞めた当時、次の環境でも活躍できる自信はありましたが、どちらかというと焦燥感のほうが強く「とにかく早くeスポーツキャスターの道に進まなきゃ」という感じでした。局アナの仕事が嫌だったわけではなく、転職の決断は難しかったですが、やっぱりゲームキャスターへの熱量が勝ったんです。
あと、転職は一度やってみないと分からないものです。
一度、経験すると「転職ってこういう感じか」と要領を掴んで、どんどんキャリアについて考えられるようになります。日本は終身雇用がベースにあるので、転職したことがない人がほとんどで、「転職が怖い」と思うかもしれませんが、やってみると意外とそうでもないんですよね。
少し抽象的にはなりますが、転職するときは、熱意が大切です。転職は間違いなく大変なことで、次の環境では今よりも大きなタスクを成し遂げないといけません。
職種が変わると、周囲とはビハインドの中、結果を出していかなければなりません。「それでもやりたい」というエネルギーが必要です。
「今よりラクをしたい」とか、そういう気持ちでは良い転職にはなりづらいでしょう。
――ありがとうございます!ちなみに今のeスポーツ業界では、具体的に「どういう業界出身」で「どういうスキル」の需要がありそうでしょうか。
エンタメ業界出身の人が欲しいですね。コロナ禍が明けてから、有料チケットでお客さんを呼ぶオフラインイベントが増えたので、大きな興行イベントをうまく運営できる人を必要としています。
具体的には、埼玉スーパーアリーナのステージングや、大規模なイベントに携わってきた人が力を貸してくれると助かります。そういう領域はいまのeスポーツ業界の人材だけでは難しいので、経験のある人が来てくれると心強いです。
とはいえ、エンタメ業界の人たちは忙しくて、ゲームをやる時間がない。
だから「ゲーム好き」かつ「エンタメ業界出身」の人はとても貴重です。そういう人が自信を持って飛び込んできてくれると、一緒に楽しい仕事ができるでしょう。
──平岩さん、ありがとうございました!
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