【インタビュー】東大卒からTwitch入社を経て、配信技研の取締役へ。中村鮎葉(アユハ)さんのキャリアとは
eスポーツ専門の求人メディア「eek(イーク)」では、eスポーツに関するさまざまな仕事にフォーカスした記事をお届けします。第8回は、元Twitch社員であり、現在は配信技研、取締役のアユハこと中村鮎葉さんです。
アユハさんは、スマブラコミュニティで活動するなか、東京大学を卒業後、当時は今ほどの知名度がなかったTwitchの日本人第一号社員として従事しました。
今回は「eスポーツのキャリアを目指したきっかけ」「自身の仕事内容」「どういう人がeスポーツの仕事に向いているか」「転職について」を中心に伺いました。
アユハさんは、スマブラコミュニティで活動するなか、東京大学を卒業後、当時は今ほどの知名度がなかったTwitchの日本人第一号社員として従事しました。
今回は「eスポーツのキャリアを目指したきっかけ」「自身の仕事内容」「どういう人がeスポーツの仕事に向いているか」「転職について」を中心に伺いました。
eスポーツのキャリアを目指したきっかけ
──早速ですが、Twitch に入ったきっかけを教えていただけますか。
私がスマブラのオフライン大会の運営をやっていたことに加え、英語が喋れたこともあったのか、スマブラ勢からのコネクションでTwitchから声がかかったのがきっかけです。
大学院を中退してTwitchに入りました。
大学院1年生の頃の、就活で情報系の企業に全て落ちていました。日本の企業に1社も通らなくて、インターンを含めて20社の選考に落ち、内定が出ないまま大学院2年生が迫っていました。
「終わった…」と思っていたら、Twitchから声がかかりました。
東大の情報系というのは、基本的に企業の選考で落ちることはありません。渋谷区や港区にIT企業はたくさんあるので、東大の情報系を欲しい企業はたくさんあるんです。スタートアップを経験したい場合は、ベンチャーに行く人もいるし、スタートアップを作る人もいます。
私も有名企業に就職したかったのですが全て落ちました。
「趣味を通じて知り合った人に職場を紹介してもらった」というのは、例外中の例外過ぎて、当時の大学の同級生からすると理解できなかったことのはずです。
──東大の方たちは、エリートとして有名企業に就職する人や、在学中に起業する人も多いイメージですが、どちらでもない「突然変異」の部類に入ったみたいな感じでしょうか。
そうですね。東大の中で起業するタイプと、私はちょっと違うんです。
当時、起業するタイプの人はアウトドア系のいわゆる「陽キャ」だったのですが、私は漫画やアニメが好きなインドア系でした。
今は少しずつ変わってきて、パソコンをカタカタしているインドア系でも起業する人はいるかもしれませんが。
当時のTwitchは、今のような有名企業ではなくベンチャー企業でした。また「eスポーツって何?」という時代だったので、私は完全に異質でしたね。
ご自身の仕事内容について
──お仕事内容について詳しくお聞きできますか。
現在は配信技研の取締役をやっています。インターネット時代がもたらした「個人の強さ」をさらに加速させて、個々の自己実現の助けをしている企業です。
元々、配信技研は、ライブ配信そのものが人気だとアピールしてきた企業でした。
この記事を読んでる方は「ライブ配信は人気のコンテンツである」と知ってると思いますが、以前はそうではなかったんですよね。
──たしかに…特に2010年代の前半はライブ配信の認知度も低かったです。
いまだに広告代理店の方にとって、人気があるのはテレビタレントという発想があるでしょう。実際、インスタやTikTokなどのSNSにおいても、テレビタレント系のアカウントが人気で、 YouTubeでもテレビタレントが出演する動画が人気です。
私たちは客観的なデータを用いて、広告代理店の方に「ゲーム配信者や VTuberも人気である」と売り出していきたかったんです。例えば「マイクラやApex Legendsで配信するストリーマーは人気だ」と言いたかったんですよね。
──配信技研が多くのデータを出していたのは、ライブ配信の価値を証明するためでもあったのですね。
そうですね。私たちの活動の成果もあって、少しずつライブ配信が人気だと知ってもらえるようになりましたが、日本のライブ配信者の多くは、まだまだ自分たちの価値に気づいていません。
例えば、多くの配信者は、自身の配信の同時接続数が10人〜30人であることについて、「同接が少ないから自分には価値がない」と感じているでしょう。ただデータ的には、同時接続数が10人〜30人いる配信者は、上位1割未満の優秀なクリエイターなんです。
彼らは「人気クリエイターに比べるとまだまだです」と言って、自分のことを「自分はすごくない」と誤った解釈をしている状況です。私たち配信技研は「そういう人たちを助けたい」「そういう人たちの力になりたい」と思って活動しています。
データの配信以外にも、各地でセミナーをやって、私たちが集めた、eスポーツ業界を盛り上げてくれるような、ビジネスマンにいろいろな話をしてもらっています。
「同時接続が1,000人以下のストリーマーでもすごく価値がある」「100人いかないストリーマーもすごく価値がある」というのを説得して回っているんです。
「みんなが自信を持って強くいる方が経済がうまく回る」という、背景データやリサーチ結果があるので、私たちもその一助になるような活動をしています。
──最近、イベントでアサインされる演者は、まさに上位数パーセントのストリーマーで固定化されてきましたが、そういった状況を変えたいということなのでしょうか。もっと中小規模の配信者をもっと使ってもらえる世界にしたいと望んでいるのでしょうか?
変えることは無理であり、また変えるべきでもないと考えています。
同接10人規模の配信者を呼ぶべきイベントや企業もあるはずです。
例えば、全イベントが幕張メッセのような大規模で開催するわけではありませんし、会議室の一室を借りたイベントに、同時接続1万人を超えるスーパースターが来る必要はありません。
このようにストリーマーは、いろんな場所や規模に合わせて、使えることを企業側には知ってほしいですね。
どういう方と現場で働きたいか
──どういう方と一緒にeスポーツの仕事をしたいと考えていますか。
eスポーツはエンターテイメント産業ですので、実際に現場を知っていて、経験がある人がいいです。
例えば「イベントを運営したことがある」「自分でチャンネルを運営している」「マネジメントしている配信者を3人ぐらい入れているチームを作っている」など、既にやったことがある人ですね。
あと、英語力は求められます。
eスポーツ業界の誰に聞いても「英語力は必要だ」と言います。
現在は英語力だけではなく、英語ができた上で「ソーシャルメディアやアカウント運営」「大会運営でチャンネルアカウントを運用した」などの経験がある人もeスポーツ業界に入ってきてくれています。
語学力と実務経験を兼ねそろえた人材。個人としても企業としてもそのような人と一緒に働きたいと思います。
──少し答えづらい質問をさせてください。そのような優秀な人材はeスポーツ業界に限らず、どの業界でも求められています。獲得競争になったとき、報酬面でeスポーツ業界は勝てない気がしますが。
はい。勝てません。
優秀な人は、給料が高い企業に行く傾向にあるので、ある程度は仕方ないでしょう。それでもeスポーツ業界に来る人は、増えてきているように感じます。
もし他業界で実務経験を積んだ方で「いまeスポーツで何かやりたい」「eスポーツに関わりたいけど、何をすればいいんだろう」と考える余地があるなら、やはりeスポーツ業界で手を動かしてほしいです。
イベントや大会、チャンネルの運営や、自分で勝負するのを経験としてやっておいてほしいです。
そういう挑戦ができる方は、 eスポーツ業界にとっても魅力的だし、(今後のキャリアを考えたときに)あわよくばさらに良い企業に就職できる可能性もあるでしょう。
【特別質問】アユハ氏はなぜ「eスポーツの情報」をブログで発信し続けるのか
──最後に個人的に気になっている質問をさせてください。個人でもブログで情報発信されていますが、目的は配信技研でおこなっているストリーマーのサポートと同じしょうか。
はい。同じです。
ブログの読者層としては、いまeスポーツ業界で困っている、または苦しんでいる「仔羊たち」を想定しています。
──最近では「eスポーツ盛り上げおじさん」の記事が話題になっていました。
あの記事では「なんで自分は注目されないんだ」と悩んでいるストリーマーに対して「あなたのやっていることは正しい」というエビデンスをあげるんです。
他には実際にプレイヤーを意識した「競技シーンは誰のためのものなのか」があります。
記事内では「競技シーンはゲーム会社のものではなく、プレイヤーのもの」と書いています。
最近のプレイヤーは、競技シーンはゲーム会社のものだと思っているんです。私はプレイヤーに「もっと楽しんでいいんだよ」「もっと自信を持っていいんだよ」と伝えたいという意図があり、一貫した理論を出し続けています。
配信技研のマインドや私のブログ・動画は全部一つの理論になっています。電磁気学でのマクスウェル方程式のように、そこから全部統一されてる理論になっているんです。
──アユハさんのように、こういったデータに情報を発信される方は少ないように思います。今後、ご自身と同じような方が増えてくるべきだと考えていますか。
同じような人がもっと出てきてほしいですし、実際に私の周りにもいます。
eスポーツやライブ配信で苦しんだ人は、絶対に私達と同じ意見になっているはずです。
多くの成功したストリーマーも、(勝ちパターンといえる)普遍的な理論を持っていないことが多いんです。「自分がストリーマーとしてうまくいったかどうか」よりも「他のストリーマーをどう育てたか」が大事です。
特定のストリーマーの成功パターンが、他のストリーマーにも適用できる理論なのかどうかの検証が必要です。そういった再現性のある理論がないと、このコミュニティは守れないと考えています。
現代は(eスポーツに限らず)カルチャーの消費スピードが早いので、自分の好きなゲームやチャンネル、グループは、すぐに無くなります。
それらを守るためにも「みんなが使える理論を作る」という発想になる人がいるはずです。
そういう人たちは、私の前に現れますし、私と同じ意見になると考えています。
――アユハさん、ありがとうございました!
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