キャリア視点で見る「eスポーツビジネスフォーラム」現地レポート【日本eスポーツアワード2025】

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キャリア視点で見る「eスポーツビジネスフォーラム」現地レポート【日本eスポーツアワード2025】

2025年1月15日、eスポーツ業界の最新動向と未来を展望する「eスポーツビジネスフォーラム」が「日本eスポーツアワード2025」の一環として開催されました。本レポートでは、eスポーツ業界をけん引する株式会社REJECTの事業統括本部長・野山嶺氏による基調講演と、それに続くパネルディスカッションの内容をお伝えします。

株式会社REJECT 講演会レポート


まずは、株式会社REJECT 事業統括本部長 野山嶺氏の講演の様子をレポートします。講演で触れられたのは、「eスポーツのコミュニティ」「スポンサーシップとマーケティング」「海外展開」の3本のトピックです。

株式会社REJECT 事業統括本部長 野山嶺氏

株式会社REJECT 事業統括本部長を務める野山嶺氏は、新規事業創出とeスポーツ業界の発展に尽力する経営者である。プロeスポーツ選手および関連職種を、次世代の若者が憧れる職業として確立することを自身のミッションとしている。

2018年4月にP&Gジャパン合同会社に入社。家電ブランド「Braun」「OralB」の営業責任者として、Amazonや楽天などのECサイト、TVショッピング、家電量販店など、10以上の小売店を担当した。特に楽天市場では、ブランド公式ストアの立ち上げを主導し、その功績によりアワードを受賞。全担当カテゴリーにおいて売上の二桁成長を達成するなど、顕著な実績を残している。

2021年3月より株式会社REJECTに参画。事業統括本部長として、既存事業の成長戦略立案から新規事業の創出まで、幅広い業務を統括している。日本を代表するプロeスポーツチームの経営者として、業界全体の発展を牽引する立場にある。スポーツビジネスとデジタルエンターテインメントの融合という新たな領域において、独自の価値創造に挑戦し続けている。

トピック① eスポーツの枠組みを超えた総合コミュニティ


野山氏は、eスポーツが単なるゲーム競技の枠を超え、YouTuber、VTuber、お笑いなど、多様なエンターテインメントが交差する文化へと進化していることを指摘。

この変化を象徴する存在として、株式会社REJECTがソニー株式会社と共同で立ち上げた「REJECT HUB」の存在について触れました。REJECT HUBは、従来のeスポーツ施設の概念を一新し、eスポーツとエンターテインメントが自然に融合する拠点として設計されたコミュニティスペースです。

同施設は、最新のソニー機材を備えた本格的な配信スタジオ、ソニーとNURO光の高速通信環境を活用したストリーミングスペース、そしてクリエイターたちが自由に交流できるラウンジの3つの機能を備えています。
特筆すべきは、この施設がREJECTに所属する50名以上のプロゲーマー、ストリーマー、VTuber、YouTuberだけでなく、外部のクリエイターにも開放されている点です。「ゲーム・音楽など共通の話題を通じて異なるジャンルのクリエイターが『クロスカルチャー』できる場所」が施設のコンセプト。実際、配信や撮影といった制作活動から、クリエイター同士の交流会、ファンイベントまで、様々な用途で活用されています。

eスポーツがゲーム競技だけでなく、より幅広いエンターテインメント分野との連携を深めていく時代の流れを具現化した取り組みといえるでしょう。

トピック② マーケティング視点で進化するeスポーツスポンサーシップ

2つ目のテーマとして、従来のスポンサーシップの概念を超えた新しいアプローチについて触れられました。

野山氏は、「スポンサーという言葉は日本語で『出資者』や『広告主』と訳されますが、それは一面的な解釈に過ぎません。REJECTは、単なる資金提供を超えて、ブランドとファンの双方に価値を生み出すマーケティング施策の実現を目指しています」と、REJECT独自のマーケティング理念を説明。
この考えを具現化した好例として、2023年3月に開催された世界的格闘ゲーム大会「EVO Japan 2023」での取り組みが紹介されました。

メインスポンサーであるロート製薬は、ビーズソファメーカーのYogiboとコラボレーションし、「ロートジーヨギボー」という革新的な選手休憩エリアを創出。

従来、選手や観客は床に座って休憩するしかありませんでした。しかし、この空間は単なる休憩所を超えて、選手同士の交流やファンとの写真撮影の場としても機能し、大会の活性化に貢献しました。
野山氏は「異業種スポンサー横断型の企画」の重要性を強調しました。

現在、40名以上の社員と50名を超えるプロゲーマー、ストリーマー、VTuberを抱える業界有数の企業に成長した株式会社REJECT。2024年には国内外の著名投資家からの資金調達にも成功しており、このような革新的なスポンサーシップモデルをグローバルに展開していく構想を持っています。

「スポンサー企業のニーズに応えるだけでなく、選手やファンが真に求めているものを的確に把握し、それを実現することが我々の使命です」と野山氏は強調します。異なるメーカーのファン層を相互に結びつけるこのアプローチは、eスポーツ業界における新たなマーケティングの形を示しています。

トピック③ グローバル展開を加速するREJECT

2024年、株式会社REJECTは国内外の著名投資家から10.7億円の資金調達を実現し、グローバル展開への新たな一歩を踏み出しました。

この資金調達の成功は、同社が『PUBG Mobile』『Apex Legends』の世界大会で優勝し、2024年の累計獲得賞金額が4.2億円に達するなど、国際的な実績を積み重ねてきた結果といえます。
野山氏は、日本のeスポーツ環境について「チーム評価やトレーニング施設など、日本のeスポーツ環境は、まだ海外に比べ劣っている部分がある」と率直な分析を示しました。

このネガティブな現状認識のもと、グローバルスタンダードに追いつくための施策を展開しています。
その具体的な一歩として、サウジアラビアでの海外支店設立計画が発表されました。特に注目すべきは、野山氏が掲げる「ゲームは言語を越えたツール」という視点です。

この考えからは、eスポーツを単なる競技としてではなく、世界共通のエンターテインメントとして捉え直す覚悟が感じられました。

キャリアに関する議題を3つピックアップ


パネルディスカッションでは、プロゲーマーとしての経験を持ち、現在は配信技研の取締役として活躍する中村鮎葉氏、eスポーツの技術基盤を支えるソニーネットワークコミュニケーションズNURO事業部の田原氏が加わり、eスポーツの現状と課題について議論が交わされました。

ここでは、ディスカッションでの登壇者3名のやり取りについて、キャリア形成の視点での切り口で紹介します。

eスポーツ業界でのキャリア構築について

パネルディスカッションで取り上げられた重要なテーマの一つが、「eスポーツ業界でのキャリア構築」でした。特に興味深かったのは、プレイヤーから経営者へと転身を遂げた中村氏による、業界特有のキャリアパスに関する洞察です。

中村氏は自身の経験を踏まえ、eスポーツ業界における仕事獲得の本質について言及しました。スポンサー企業が協業先を選定する際、業界への深い理解と実績を持つ人材を重視する傾向があり、これは急成長を遂げるeスポーツ業界において特に顕著な特徴といえます。

中村氏の「eスポーツ界隈ではお仕事を頂きやすい」という発言の背景には、長年の業界経験を通じて築き上げた信頼関係と実績の重要性が見て取れます。

さらに中村氏は、eスポーツビジネスにおける重要な視点として、「モノを売る」ことと「知識を売る」の違いを指摘しました。例えば、ゲーミング機器やグッズといった物理的な商品の販売と、戦略やテクニックといった知識やスキルの提供では、必要とされる能力や適性が大きく異なります。

この観点は、eスポーツ業界でキャリアを築こうとする人々にとって、自身の強みを活かしたキャリアパスを選択する際の重要な判断基準となります。業界の多様化が進む中、自己の適性を見極め、それに合致した領域で専門性を深めていくことが、持続的なキャリア構築につながるという示唆に富んだメッセージといえるでしょう。

社員3名で始まった「REJECT」での厳しい営業活動

野山氏はこの議題に対し、2021年にわずか3名の社員から始まった同社に参画し、「入社初年度の営業活動は困難の連続でした」と当時を振り返りました。当時、多くの企業が「ゲームへの投資」に懐疑的で、スポンサー獲得には厳しい目が向けられていたそうです。

その状況は急速に変化しました。現在、株式会社REJECTは40名以上の社員と50名を超えるプロゲーマー、ストリーマー、VTuberを抱える組織へと成長。

『PUBG Mobile』『Apex Legends』での世界優勝、2024年の累計獲得賞金額4.2億円など、目覚ましい実績を重ねています。この成長は、eスポーツ業界に対する企業の認識変化と、それを見据えた野山氏の先見性が結実した結果といえるでしょう。

ベンチャー企業が中心に構成されるeスポーツ業界でのキャリア形成は、ハードシングスになりがちです。野山氏のように、目の前の困難を突破することも必要になるでしょう。

厳しい環境での仕事は心身ともに負荷が高いですが、のちの自分のキャリア形成の礎になります。

広い視野を持つ「越境的な視点」の重要性

パネルディスカッションでは、eスポーツ業界の更なる発展に向けた示唆に富む議論が展開されました。

中村氏は、意外にも「F1」「ワイン」「自動車」といった、一見eスポーツとは無関係に見える分野をベンチマークすべきだと提案。これらの分野が持つブランド価値の構築方法や、ファンエンゲージメントの手法から学ぶべき点が多いと指摘しました。

野山氏もこの視点に賛同し、広告価値の観点から「リアルスポーツでは、画面占有率や時間帯による価値の違いなど、広告評価の体系が確立されている一方、eスポーツはまだ追いついていない部分も多い」「eスポーツは、リアルスポーツの先進的な評価手法を学び、適用していく必要がある」と述べました。

特に注目すべきは、両氏が強調する「越境的な視点」の重要性です。

急成長を続けるeスポーツ業界において、他分野の成功モデルを研究し、適応させていく柔軟な思考が、さらなる発展の鍵を握ると示唆しました。

これは、ビジネスパーソンのキャリア形成としても、常に広い視野を持ち、自身の立ち位置を客観的に評価する重要性を示す指摘といえるでしょう。

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