【独占取材】なぜ札幌市は「ALGS」の誘致に成功したのか? ── 札幌市「経済観光局」が描く"ゲームの街"構想とは

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【独占取材】なぜ札幌市は「ALGS」の誘致に成功したのか? ── 札幌市「経済観光局」が描く"ゲームの街"構想とは

普段は表に出てこない「eスポーツを盛り上げる裏方さん」にインタビューする本連載。

今回は、『Apex Legends』の世界大会「ALGS(Apex Legends Global Series)」(2025年1月29日~2月2日開催)の誘致に成功した札幌市を取材。

約70社以上のゲーム関連企業が集積する札幌市において、「ゲームの街・札幌」としての魅力を発信し続けてきた、札幌市経済観光局産業振興課の田中清敬さんを取材しました。

なぜ札幌市はeスポーツに注力するのか? なぜ「ALGS」の誘致に成功したのか?

史上最多3万人動員を達成した、世界大会の舞台裏にも迫ります。

70社以上のゲーム関連企業が集積!札幌市は90年代から「ハドソン」などの「ゲームの街」だった


──札幌市がeスポーツに注力している背景や理由を教えてください。


札幌市の産業振興部門として、地域のゲーム産業の発展に大きな可能性を見出しているからです。札幌市役所には産業振興、観光振興、スポーツ振興など様々な部署がありますが、eスポーツに関してはどの部署も関係する横断的な取り組みとなっています。

実は札幌には、かつて株式会社ハドソンという大手ゲーム会社があり、その系譜を受け継ぐ形で1990年代から多くの開発者が新しい企業を立ち上げてきました。ハドソンで活躍されていたプログラマーの方々が、いわば第二創業のような形で次々と起業し、現在では政令市の中で大阪に次ぐ約70社以上のゲーム関連企業が集積しています。

もともとIT産業も発展してきた街であり、ゲーム産業の市場規模も拡大を続けています。このような背景から、大規模なeスポーツ大会を実現することで「ゲームの街・札幌」としてのプレゼンスを高めていきたいと考えています。具体的には、より多くのゲームクリエイターや、これからゲーム業界を目指す若い人材を集めていくことを目指しています。

そういう意味で、今回『Apex Legends』の世界大会を誘致できたことは、札幌のゲーム関連企業の存在感を示し、さらなる産業振興につながる重要な機会になったと思います。

──札幌市役所には、eスポーツに詳しい方はいらっしゃるのでしょうか。


熱心にeスポーツに取り組んでいる職員もいますが、主要メンバーは、懐かしのゲーム世代が多いんです(笑)。

現在、主流の『Apex Legends』のような新しいゲームは少し不得手な職員が多いですが、みんな昔からのゲーム好きが揃っているのは確かですね。

──eスポーツを推進する上で、それは課題にはなりませんでしたか?


むしろ私たちの強みになったと考えています。というのも、eスポーツという新しい分野だからこそ、「これは自分たちの担当ではない」という縦割り意識を超えて、各部署が連携できたのです。

産業振興部門は地域の活性化、観光チームは選手やファンの方々へのおもてなし、スポーツ振興チームは大和ハウス プレミストドーム(旧:札幌ドーム)の活用など、それぞれの部署が得意分野を活かして取り組むことができました。このように、従来の縦割り型の仕事の枠を超えて、各部署が一体となって推進できたことは、札幌市のeスポーツへの取り組みの大きな特徴だと考えています。

「ALGS」誘致の“決め手”は「YOSAKOIソーラン祭り」?


──今回の世界大会誘致はどのように実現したのでしょうか。


最初のきっかけは、北海道eスポーツ協会からの情報でした。「日本での開催を検討している」という話を聞き、業界内でもアジア・日本での開催が噂されていた中で、私たちも可能性を感じ始めていました。

主催者の「エレクトロニック・アーツ」様は国内の候補地として東京、名古屋、大阪などを視察していましたが、その一環として2024年6月初め、札幌市にも足を運んでいただきました。私たちは、大和ハウス プレミストドームの施設見学をはじめ、ホテルの案内、観光地の紹介など、札幌の魅力を総合的にアピールしました。

視察の時期がちょうど「YOSAKOIソーラン祭り」*と重なったのですが、主催者の方々に踊りを見ていただいたところ、このパフォーマンスが非常に心に響いたようでした。実際、大会最終日のオープニングセレモニーは、このよさこいからインスピレーションを受けた構成となり、札幌らしさを演出することができました。

「YOSAKOIソーラン祭り」札幌大通公園を中心に行われる北海道の初夏の一大イベント。

大会最終日のオープニングセレモニーの様子



──大会の手応えはいかがでしたか?


当初から非常に反響が大きく、5日間で3万人以上の来場を記録しました。これは前回のドイツ・マンハイムの大会と比較すると、その規模の大きさがよくわかります。マンハイム大会の決勝では約3000人程度の来場者数でしたが、今回の札幌大会では初日の予選からその規模を超える集客があり、主催者からも非常に高い評価をいただきました。

最終日には、秋元市長が会場で取材に応じていましたが、声が上ずるほど興奮されていたのが印象的でした。イベントを通じて、多くの海外の方や道外の方にも札幌に来ていただき、このような大規模な国際大会を成功させられたことで、札幌がeスポーツの世界大会も開催できる街であることを示せたと考えています。また、この成功は、今後の誘致活動にも大きな弾みになるはずです。

15社の市内ゲーム事業者が参加した「札幌ゲームキャンプ」


──地方創生におけるeスポーツの可能性についてはどのようにお考えですか?


eスポーツには、国籍や年齢、性別に関係なく、誰もが共通のステージで楽しめるという大きな特徴があります。教育現場での活用や、福祉施設でのコミュニケーション能力向上のツールとして、また観光振興など、まちづくりの様々な場面で活用できる可能性を秘めています。

例えば、3年前から地元ゲーム会社と連携して「札幌ゲームキャンプ」という取り組みを行っています。セガ札幌スタジオをはじめとする約15社の市内ゲーム事業者が参加し、学生向けのゲーム開発イベントやぷよぷよを使ったeスポーツ大会などを開催しています。

昨年10月の第3回では約1400人が参加し、学生たちが実際のゲーム企業からプログラミングの指導を受けられる月例の機会も設けています。このように、eスポーツやゲーム開発を目指す若い世代のキャリア形成支援も重要な活動の一つです。

また、大規模な世界大会による直接的な経済効果は大きな魅力です。さらに、様々な規模やジャンルの大会を開催することで、より多くの方々に札幌の魅力を知っていただくきっかけにもなると考えています。

真っ白な雪景色が広がる冬の札幌市



──この機会に、札幌市ならではの魅力についても教えていただけますでしょうか。


札幌の魅力は、なんといっても冬の雪でしょう。雪まつりはもちろん、都心部から20-30分で本格的なスキー場にアクセスでき、パウダースノーを楽しんでいただけます。一方で、本州が猛暑に見舞われる夏は、札幌は比較的過ごしやすい気候なので、夏のeスポーツ大会の開催地としても大きな可能性があると考えています。

また、ラーメンやスープカレー、スイーツ、寿司、海鮮など、豊富な食の魅力も札幌の強みです。ちょうど今の時期は、石狩鍋などの鍋料理が旬を迎え、ラーメンも一段と美味しく感じられる季節です。

世界大会の成功を踏まえた今後の展望


──今回の世界大会の成功を、今後どのように活かしていきたいとお考えですか?


このような大規模な大会をもう一度開催したいという思いはもちろんありますが、主催者の意向など様々な要因があるため、実現にはハードルもあります。そこで私たちは、この成功を一過性のものに終わらせることなく、様々な規模やジャンルの大会、対象者を変えたeスポーツイベントを展開していきたいと考えています。

こうした大きな世界大会では熱狂的なファンの方々に集まっていただけますが、それだけでなく、eスポーツに取り組む高校生や、その保護者の皆さんにも楽しんでいただけるような取り組みを増やしていきたいですね。学校と連携したイベントなど、より地域に根差した展開を目指しています。

最終日の会場は超満員



──今後の課題や展望についてお聞かせください。


今回の大会規模が大きかったこともあり、地元企業や経済界との連携をもう少し深められればよかったと感じています。ただ、実際に大会を見ていただいた地元の経済団体の方々からは「これはすごい」という声をいただきました。今後は官民を挙げて札幌全体で取り組んでいきたいという機運も高まっています。

このような声を活かし、今後は市民により身近な規模の大会やイベントをこまめに実施し、より多くの方々が参加できる機会を創出していきたいと考えています。
また、eスポーツやゲームに対する市民の理解促進も重要な観点だと捉えています。特に親世代には「ゲームってどうなの?」という声もまだ根強く残っています。

そこで私たちは、「広報さっぽろ」での特集記事*の掲載や、地下歩行空間、福住駅でのラッピング広告を展開しています。これらを通じて、eスポーツが新しい職業や可能性を生み出すことを広く伝える活動を行っています。1月号では、北海道eスポーツ協会の会長である冬季ノルディック五輪メダリストの阿部雅司氏にも協力いただき、さらなる普及啓発を進めています。

ALGSでの成功は、私たちにとって通過点に過ぎません。今後は様々な規模やジャンルの大会を継続的に開催し、より多くの市民がeスポーツに触れる機会を創出します。これにより、「ゲームの街・札幌」としての価値をさらに高めていきたいと考えています。

※札幌市の制度や手続き、市内の施設、交通機関などを紹介する冊子。Webでの閲覧も可能。

──札幌市経済観光局 田中さん、ありがとうございました!