【ENZAさんインタビュー#2】ゲーム理解度の差を埋め、日本のeスポーツチームが世界で勝つために必要なもの
eスポーツ専門の求人メディア「eek(イーク)」では、eスポーツに関するさまざまな仕事にフォーカスした記事をお届けします。今回は、複数のeスポーツチームでゼネラルマネージャー(以下、GM)を務めてきた、ENZAさんへのインタビューです。
本企画では、ENZAさんに複数のテーマにわたってお話を伺っています。#2では、海外チームとのゲーム理解度の差がどこから生まれているのか、日本のeスポーツチームが世界で勝つためには何が必要かについて聞きました。
前回の記事:
【ENZAさんインタビュー#1】eスポーツチームを“勝たせる”ゼネラルマネージャー(GM)の仕事とは?
本企画では、ENZAさんに複数のテーマにわたってお話を伺っています。#2では、海外チームとのゲーム理解度の差がどこから生まれているのか、日本のeスポーツチームが世界で勝つためには何が必要かについて聞きました。
前回の記事:
【ENZAさんインタビュー#1】eスポーツチームを“勝たせる”ゼネラルマネージャー(GM)の仕事とは?
海外チームとのゲーム理解度の差はどこから生まれている?
――#1では、ゲーム理解度の話題に触れました。海外のトップチームと比べて、日本のチームにおけるゲーム理解度の差は、どういったところにあるのでしょうか?
ENZA:
基礎がしっかりとできていないことが大きいですね。基礎は高いレベルを目指すからこそより重要になるもので、本当のトップレベルにならないと、基礎の大事さというのはなかなかわからないものです。FPSゲームで、ある場面でなぜ撃ち合いに負けたのかを分析するとしますよね。このときに、きちんと基礎の項目を入れて考える必要があります。例えばゲームには仕様上、明確に優位なポジションが存在していて、それを知ったうえで対策しなければなりません。基礎ができているトップチームは、そうした対策も徹底しています。
でも、それを知らなければ、ただ撃ち負けたという考えになってしまう。問題解決のプロセスにおいて、最もクリティカルな要素はスキルの問題ではなく、基礎の部分にあることが多いです。
――そうした差は、どこから生まれていると考えられますか?
ENZA:
きちんと世代交代をしてこなかったことが要因の1つですね。僕たちの世代が世界で戦ったあと、知識をまわりに教えずに辞めてしまったので、そこで一度リセットされているんです。当時は環境的にまだプロゲーマーという道がなく、就職に伴って選手を引退する人がほとんどでした。それで、次の世代がノウハウを知らないまま、ゼロからスタートしている。そうなると、続く世代のプレイヤーたちの問題解決能力次第ということになります。――海外では、ノウハウが受け継がれやすい環境があるのでしょうか?
ENZA:
海外だと、例えば『Counter-Strike』のチームであれば、長いキャリアの選手が若い選手と一緒のチームでプレイしていたり、選手を辞めたあともコーチとして活動を続けていたりするので、そういったなかでノウハウが受け継がれています。――たしかに海外のトップチームでは、ベテラン選手1人と若手4人のような組み合わせをよく見かけるイメージがあります。
ENZA:
チームの構成は、それが理想的だと思います。ほかにも、韓国ならもともと『StarCraft』で活動していた選手やコーチが、そのノウハウを持って『League of Legends』(以下、LoL)に移行したりしています。タイトルは違えど、ノウハウとして活かせる部分は多々あり、例えば『StarCraft』のビジョンコントロールの考え方は『LoL』にも応用できます。集団戦における陣形の考え方なども、どちらのゲームにも共通する基礎ですね。
――タイトルが違っても、近いゲームジャンルからノウハウが積み重ねられていると。
ENZA:
自分はRTS(リアルタイムストラテジー)ゲーム出身だったので、『Counter-Strike』に移行したときも、撃ち合い以外で差がつくところがたくさんあると感じていました。ゲームジャンルが違っていたとしても、活かせるノウハウは多いと思います。――FPSやMOBAの例を挙げていただきましたが、日本では格闘ゲームのシーンではノウハウがしっかり伝わっているように見えます。
ENZA:
日本の格闘ゲームの場合は、キャリアの長いトップ選手たちが残っていますからね。そういう選手たちが若手の選手たちと交流して、例えば「こういうメンタル状況だったら、こうしたほうがいい」といったことを伝えられる。トップ選手たちを伝道師として、直接教わって上手くなっていく環境が、格闘ゲームのシーンにはあると思います。日本のチームが世界で勝つためには、何が必要なのか
――日本のチームが、今よりもっと世界で勝てるようになるには何が必要だと感じますか?
ENZA:
環境を用意する必要があると思います。選手たちに適切な考え方を教えられる人、例えば本番のメンタル状況に当てはめたときに、どうすべきかを教えてあげられるような人がいるかどうかでも変わってきます。例を挙げると、マウスの操作は基本的に力を入れないほうが上手くいきます。でも、大会本番のメンタル状況では、人によっては意識しない限り力を抜くことができないんですよ。かといって力を抜こうと意識すると、ゲーム内のパフォーマンスが下がってしまう可能性がある。だから、結局は力を入れた状態でプレイする方法を探したほうが、本番のパフォーマンスが上がったりするんです。
それを考えたうえで普段から練習するには、そういう適切なアドバイスをする人が必要です。世界で勝つために、平均的なレベルを上げていくことを考えるなら、やはり環境や育成機関、正しい基礎知識やトレーニング方法を学べる場所が必要だと思います。また、現状オフライン大会も少ないので、そういった機会も増やす必要があると思っています。
あと、今はSNSなどで間違った情報も拡散されやすくなっています。影響力のある人が発信する情報が正しいとは限りません。競技シーンにくわしくない人のほうが影響力が強く、なかには間違った情報が広まってしまっているケースもあります。
――情報に関しては、競技シーンにいる現役の選手やコーチが、積極的にノウハウを発信するのが難しいという背景もありそうです。
ENZA:
発信しないですよね。勝ち負けがつく世界なので。自分たちだけが知っているノウハウを公開したら、勝率が下がる可能性だってあります。自分も昔は「何十時間もかけて研究したものを、なぜ公開しなければいけないんだ」というマインドでした。今はもうチームにも属していないので、公開しなければならないと思っています。ただ、間違った情報が拡散されるのは、いろいろな業界で問題になっていることと変わりません。例えば、美容に関する間違った情報を信じて、健康上の問題が起きてしまうとか。そういった話と似ていて、情報発信の方法を考えなければならないと思います。
――だからこそ、体系立てて正しいノウハウを学べる場があったら変わるのではないかと。
ENZA:
そう思っています。ただ、それは全体的に平均レベルを上げるための話ですね。優秀な人は、ちゃんと自分で勉強しています。海外のトップ選手たちは、戦術やメンタルなどいろいろなことに関して、自分で本を読んで学んでいるんです。韓国人選手が日本のアスリートの本を読んでいるという話も聞いたことがありますし、そうやって外から学ぼうとするんだなと。自分は現役時代に、孫子の兵法書などを読んで参考にしていました。昔の偉人たちが残している知識やノウハウも、十分に転用できるものがあります。
――まだ歴史の短いeスポーツよりも、ノウハウが蓄積されていて参考にできる世界がいろいろあるということですね。
ENZA:
これまでには、本当に命をかけて戦ってきた長い歴史もあるので、さまざまな知識を学ぶことができます。実際に、自分は『Counter-Strike』をプレイしていたとき、特殊部隊のコール方法やクリアリング方法を参考にしていました。あらゆる分野から学び、より貪欲に実力向上を
――eスポーツの外の世界からも学んで活かせることがあるという考え方は、多くの選手にとってプラスになりそうです。
ENZA:
上手い選手の傾向として、もともとサッカーを頑張っていたとか、何かしらのスポーツを経験してきた人が多いです。その理由の1つは、スポーツをやっていくうちに、ロジカルシンキングが当たり前になるからだと思っています。高いレベルになってくると、まわりの選手たちもそういった考え方をしているし、環境がそうさせてくれます。――どう練習を重ねていくかといった、努力の仕方を知っているということですね。
ENZA:
たまに、適当にやってきたけど、ものすごく上手いプレイヤーもいます。でも、そういうプレイヤーは行き詰まったときに、問題解決の方法がわからなくて、フェードアウトしていってしまうことが多いんです。これはeスポーツに限った話ではないですが、たまたま運良く正解を引き当ててきた天才は、コケたときに対処方法がわからなくて沈んでしまう。でも、努力できる凡人は、たくさんトライアンドエラーを重ねてきたうえでそこに到達しているから、失敗があっても立ち直ることができます。ただ、もちろんトップレベルを目指すとなれば、eスポーツでも目が良いなどの身体能力的な才能も必要だとは思います。
――それでは最後に、世界で勝つことを目指す選手たちに伝えたいことがあればお願いします。
ENZA:
実力を上げることに、より貪欲になってほしいですね。最近は、選手やコーチといった役割がはっきりしているために、あまり自身で率先してゲームの知識を取り入れない選手が多い傾向にあると感じています。大会動画を研究するレベルで観て「これを取り入れよう」とか、どんなことでもいいので、他の選手とより差がつくものを取り入れる貪欲さを持ってほしいと思っています。強い地域であれば、強いチーム同士で練習するうちに経験として得られるものが多くあります。でも、マイナー地域ではそういう強いチームとはなかなか練習できないので、より積極的に自ら情報を取ってこなければなりません。それ以外にも、ビジネスでもスポーツでもどんな分野の知識でもいいから、いろいろなものを学んで、自分にやれることを考えていってほしいですね。
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取材・文:綾本ゆかり
本企画では、ENZAさんへのインタビュー記事を複数回にわたってお届けしています。次回#3では、eスポーツチームにおけるチームづくりについてお話を伺っていきます。
取材・文:綾本ゆかり
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