【プロゲーマーEvi選手インタビュー】日本人初となる『LoL』海外リーグに挑んだトッププロの飽くなき挑戦

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【プロゲーマーEvi選手インタビュー】日本人初となる『LoL』海外リーグに挑んだトッププロの飽くなき挑戦

eスポーツ専門の求人メディア「eek(イーク)」では、eスポーツに関するさまざまな仕事にフォーカスした記事をお届けします。第1回は、『League of Legends』(以下、LoL)のプロゲーマーとして活躍するEvi選手のインタビューです。

Evi選手は、日本の『LoL』公式リーグ「League of Legends Japan League」(以下、LJL)で活躍したのち、2023年よりヨーロッパチームの「Team Heretics」に移籍。海外の『LoL』公式リーグ、かつメジャーリージョンとされる「League of Legends EMEA Championship」(以下、LEC)に出場するという、日本人選手として初の挑戦は大きな注目を集めました。

今回は、ストイックに新たな挑戦を続けるEvi選手に、2023年のヨーロッパチームでの経験についてや、韓国で行った1ヶ月間のブートキャンプについてインタビュー。また、海外では活用が進んでいる、プロ選手の契約交渉などのサポートを行うエージェントという仕事についても聞きました。

前例のないチャレンジで、自分だけの感覚を味わった1年


――Evi選手は今年、海外チームでの活動に挑む大きなチャレンジをされました。この1年を振り返っていかがですか?


Evi:

本当に貴重でおもしろい時間を過ごしたなと思います。僕の性格的に、新しいことにどんどん挑戦していきたい気持ちがあります。海外のチームで、特にメジャーリージョンのチームで活動するなんて、日本人選手は誰もしたことがなかったので、「僕だけがこの感覚を味わえているんだ」という興奮も感動もあり、すごく楽しい1年でした。

――大変なこともたくさんあったと思いますが、特にどんなところに苦労しましたか?


Evi:

やはり言語の問題ですね。自分の思ったことを相手にうまく伝えられない。これがまず1つで、文化や考え方の違いにも苦労しました。日本には察する文化があって、それぞれが持っている常識も近いんですよね。ただ、ヨーロッパは多国籍の集合体なので、言わないと伝わらないし、言わない方が悪いという考え方で、その違いをすごく感じました。

――チーム活動をするうえで、言葉ではっきりと伝えることはプラスに働くと感じましたか?


Evi:

プラスの場合も、マイナスの場合もあると思います。日本でも海外でも、どう伝えるかは大事ですが、日本では伝え方がより重要で、海外では伝えることがより重要なんです。例えば、チームメイトに改善してほしいことがあるとき、日本では「ここを変えたらもっと良くなると思うよ」という言い方をするとして、ヨーロッパでは「君のここが良くないよ」とストレートに言うイメージですね。

――海外チームでの活動を通じて、成長や変化を感じた部分について教えてください。


Evi:

成長したと思う部分はいろいろありますが、さまざまな考えに対する許容範囲が広がったところは大きいです。僕自身では、それなりに柔軟な考えができていると思っていたのですが、それはあくまで日本人の感覚での話で、実際に海外に行ってみると、本当にいろんな人がいて、いろんな考え方があります。それに触れて、より自分の考え方の幅が広がりました。

――考え方の幅が広がったことが成長だと感じるのは、やはりチームでの活動が中心にあるからでしょうか。


Evi:

まさにそうです。『LoL』はチームゲームなので、チームメイトとのコミュニケーションが非常に重要です。例えば、僕にとっては不可解なプレイや行動をしているチームメイトがいたとしても、それにただ腹を立てるのではなく、どういう理由でその行動をしているのかまで考えられれば、問題解決の手助けになります。なので、チーム活動において良い影響しかないですね。

ヨーロッパチームで経験した、地域ごとに異なる考え方


――海外チームで活動して、日本チームとの違いを感じた部分についてお聞きしたいと思います。「Team Heretics」では、どのような生活スタイルでしたか?


Evi:

「Team Heretics」はオフィス制で、選手たちが住む場所と練習する場所が別にあり、住む場所ではそれぞれに個室が与えられています。朝オフィスに出社して、みんなで練習して、練習が終わったら解散というスタイルで、仕事という感じがありましたね。ゲーミングハウス制だと、みんなで同じ場所に住んで練習するので、ほとんどの時間を同じ空間で過ごします。オフィス制はそれに比べると、チームの時間が減る代わりに、個人の時間が増えます。僕は日本ではゲーミングハウスしか経験したことがなかったので、オフィス制だとメンバー間の交流が減って、ちょっと寂しかったですね。

――ヨーロッパでは、ゲーミングハウス制よりもオフィス制のチームが多いですか?


Evi:

半々くらいだと思いますが、オフィス制の方が少し多いかもしれません。ゲーミングハウス制もオフィス制も、それぞれにメリットとデメリットがあるので、チームによっていろいろな考え方があります。ただ、ヨーロッパに行って感じたのは、ライフワークバランスを大事にしているということですね。

――どのタイトルでも、トッププロは起きている時間のほとんどを練習に費やすイメージがあります。ライフワークバランスを意識するのは難しそうですが……。


Evi:

僕もそう思います。でも、ヨーロッパの選手たちも間違いなく、すごく練習していて、どちらかというとアジアのプレイヤーたちがクレイジーというか(笑)。これは本当に地域ごとの考え方の違いで、ヨーロッパでは休みが重要視されているんですよね。ヨーロッパの選手からすると、アジアのプレイヤーたちのような、寝る間も惜しんでプレイする生活は体に良くないし、それでは持続しないだろうと。休むことがパフォーマンスのプラスになるから、しっかり休むべきだという考え方なんです。

――「Team Heretics」では、生活リズムも日本とは違いましたか?


Evi:

僕が生活していたのはドイツで、朝起きる時間はだいたい朝9~10時。日本では13時くらいに起きていたので、3~4時間くらい早いです。寝る時間も、日本では朝4時くらいでしたが、ドイツだと0時、遅くとも1時には寝ていました。ただ、ドイツは24時間営業の店がほとんどなく、街全体で0時には店が閉まっているので、それに合った生活リズムという背景もあると思います。


前に進むために考え続け、挑戦し続けなければならない


――海外チームでの活動を決めたとき、Evi選手は英語がほとんど話せなかったと聞きました。それでも飛び込んでみようと思った背景には、どのような考えがあったのでしょうか?


Evi:

そのとき既にプロゲーマーとして8年くらい活動していて、「全力でやってできないものはないだろう」という自信だけはあったんです。言語はハードルが高そうに思えますが、その言語の地域にいる人ならどんな人でも話せているわけじゃないですか。だから、その言語の環境にいたら、誰でも覚えられるはずだという考えがありました。

僕は英語が全然話せなくて、曜日もわからないレベルだったんです。自分の誕生日が11月だから、月もNovemberだけはわかるくらい(笑)。でも、逆にまったく英語の知識がないからこそ、ゼロから覚えられるとも思っていました。

実際にチームとの契約の話が進んでいくにつれて、やるからにはしっかり勉強しなければいけないなと。それで、そのときは実家にいたので、毎日5時間くらい川沿いの堤防を歩きながら、スマホでYouTubeを見て、声に出しながら勉強していました。歩きすぎて脚が筋肉痛になったりもしながら、それを続けて少しずつ覚えていきましたね。


――外で歩きながら勉強したのは、どういった理由からですか?


Evi:

歩きながらの方が運動できて体にいいし、脳にも良い刺激があって覚えられそうだったのと、なにより集中できるからです。家にいると気が散ってしまいますが、外でスマホだけ持って歩いたら、それしかすることがないじゃないですか。そうやって勉強するしかない環境をつくるようにしていました。
僕としては、これは意志が強いからできたという話ではなく、勉強の仕方の問題なんです。だから、誘惑が多い家で勉強するのは、悪手だと思っているんですよ。英語を学ぶのが大変なのは誰にとっても同じことで、それを意志で乗り越えようとすると失敗しやすいと思っています。

――そうした考え方は、これまでのプロゲーマーとしての活動のなかで培われたものですか?


Evi:

そうですね。プロゲーマーは、毎日トライアンドエラーを延々と繰り返しながら、より効率の良い練習や方法を取り入れ続けなければなりません。プロゲーマーは当然、全員が練習しているわけなので、他人と同じ練習をしているだけでは追い付けないし、追い抜かれます。
だから、常によりよくできる部分を探す癖がつくし、この世界ではそうしないと生き残ってこれなかったので、自然と身につきました。僕が英語のハードルを越えられると思ったのは、そういう勉強の方法を知っているという自負があったからでもありますね。

――言語のハードルも超え、メジャーリージョンに挑むという前例をつくったEvi選手から見て、日本人選手や日本チームに期待したいチャレンジはありますか?


Evi:

うーん、難しいな……。でも、考え続けてほしいですね。プレイヤーもチームも、同じことだけをしていたら何も伸びません。だから、前に進むために、あらゆることを考え続けてほしいと思います。そして、新しいことに挑戦し続けてほしいですね。挑戦しないことは停滞であり、後退です。これは古今東西あらゆる偉人が言ってきたことですが、それだけ重要だということでしょう。
「このままでいいや」と思えば停滞するし、何も悪手を打っていなくても、挑戦していなければ後退なんです。まわりも努力しているわけで、そのなかで前に進まなかったら、当然追い抜かれますから。
挑戦は怖いものです。僕の海外チームに行くという挑戦も、もちろん怖かったし不安もありました。でも、挑戦しなければならないんです。別に僕は、これをすべての人に言いたいわけではありません。でも、例えばプロ選手としてもっと上を目指したいとか、チームをもっと大きくしたいと思う人にとっては、必要なことだと思います。

実力を確かめるため、1ヶ月間の韓国ブートキャンプへ


――直近では、韓国に行って1人でブートキャンプをされていました。これはどういった経緯で行くことを決めたのでしょうか?


Evi:

僕は今年、シーズンが終わったのが今までと比べて早かったんです。去年までは「DetonatioN FocusMe」として、世界大会の「League of Legends World Championship」(以下、Worlds)に出ていたので、シーズンが終わるのが10月くらいだったのですが、「Team Heretics」では2ヶ月くらい早かったんですね。
シーズンが終わったあと、燃え尽きて抜け殻のようになっていたのですが、僕は休んでいるのが苦痛なタイプなので、その期間がつらくて。シーズン中にも、自分はうまくなっているのだろうかという疑問があったので、実力を確認するために、韓国に行って1ヶ月間のブートキャンプをすることにしました。
なぜ韓国かというと、最もレベルの高い地域、かつ「Worlds」の開催中で、世界各国のトッププロが集まっている期間だったから。韓国にいる選手たちがみんなランクをまわすので、過去最高にレベルが高い場所で、自分がどれくらいできるか確認しようと思ったんです。
身ひとつで行って、自分で環境を整えてプレイする方法もありますが、韓国でのブートキャンプを仲介するエージェントが結構いるんですね。エージェントに連絡すると、高いプランから安いプランまで、いくつか提示してもらえます。なかには、いいホテルでジムやプールが使えて朝食が付いて、1ヶ月で100万円くらいのプランもありました。
僕はホテルとPCの環境だけあればよかったので、シンプルなプランにして、1ヶ月で50万円くらい。そのプランをエージェントに頼んで、あとは渡航前にチーム経由でRiot Gamesに韓国でブートキャンプすることを伝えて、KRアカウントを付与してもらいました。

――ブートキャンプでは、KRチャレンジャー(韓国サーバーの最高ランク)に到達することを目標としていたのでしょうか?


Evi:

そうですね。ほかにも、KRチャレンジャーの順位でいくつとか、Zeus(韓国チーム「T1」のトップレーナー)にマッチしたいとか、いろいろありましたが、KRチャレンジャーに到達することが第一の目標でした。

――KRチャレンジャーに到達したのは、何日目でしたか?


Evi:

27日目くらいですね。本当にギリギリでした。

――プロ選手の感覚では、KRチャレンジャーは普通どれくらいでたどり着くものなのでしょうか。


Evi:

日本人選手の場合、僕の今までの感覚では、丸々1年かけて到達するイメージです。そもそも日本人選手で、KRチャレンジャーに到達したことがある人は少なくて、僕以外には2人くらいしか知らないです。

――ブートキャンプ中、1日をどんなスケジュールで過ごしていたか教えてください。


Evi:

まず、毎朝その日の食材として、パンを3つ、カレーと白米を1つずつ、毎日それだけを買って、ホテルに戻ります。そして、パンを食べながら動画を見て、食べ終わったらランクをまわして、ある程度したら配信をつける、という感じでした。本当に1日中、ずっと『LoL』だけをやっていましたね。

――時間でいうと、1日何時間くらいですか?


Evi:

もう起きてから寝るまでなので、15時間くらいですかね。途中でKRチャレンジャーになれないんじゃないかと思ったときもあって、その時期はかなりつらかったです。『LoL』をやるためだけに来て、期間は1ヶ月と決めていたので、残りの日数が少なくなるにつれて焦りも出てきて。その焦りがやっぱり良くないんですよね。
ゲームの状況が悪くなると、焦りから自分のプレイにも悪影響が出てしまって、良い方向に進まない。20日くらい過ぎたときに、目標がまだ結構遠くて、そのときがストレスのピークでした。本当に脳の血管が切れるんじゃないかと思うくらい(笑)。
ストレスは人を成長させるために必要なものだと思いますが、明らかにその域を超えて、良い影響を与えていないと思ったので、一度落ち着こうと。初心に戻ってゲームを楽しもうと、そこで考え方をガラッと変えたんです。そうしたら、そこから2日で13連勝くらいして、一気にKRチャレンジャーが見えるラインに入り、無事目標達成できました。

――自分の実力を確認したいという目的に対する、手応えはいかがでしたか?


Evi:

手応えはありましたね。「自分の実力まだいけるな、やれるんだな」という確認は、すごくできました。

選手に代わり、契約交渉を担うエージェントの存在


――先ほど話題に上がったエージェントについても、お話をうかがいたいと思います。Evi選手が日本にいたとき、エージェントを使ったことはありましたか?


Evi:

使ったことはなかったです。ただ、韓国人選手がエージェントを使うことが多いので、存在は知っていました。昔は韓国人選手も使っていなかったのですが、最近はほとんどの選手が使っていますし、ヨーロッパでも使われているのは知っていました。
僕がエージェントを初めて使ったのは、ヨーロッパに行くことになったときですね。「Team Heretics」に入る話が具体的になってきたころに、いろいろな知り合いに話を聞いて、教えてもらったエージェントのなかから選んで依頼しました。

――選手の目線から見て、エージェントとはどういった存在ですか?


Evi:

選手自身ではやりづらい仕事を、代わりにやってくれる存在ですね。チームとの契約や金額に関する交渉もそうです。選手自身だけだと、契約書の内容を判断するのが難しかったり、金額の交渉で希望を伝えにくかったりするのですが、そういった仕事を代わりに任せられるのがエージェントです。

――日本では現状、海外チームの選手が来るとき、もしくは海外チームに行くときに主に使われるイメージでしょうか。


Evi:

国内の場合だとそうですね。日本人選手が国内でチームに移籍するときに、エージェントを使うというのは、あまり聞いたことがないです。

――ヨーロッパでは、ヨーロッパのチーム内で移籍するときにもエージェントが使われていますか?


Evi:

ヨーロッパでは、9割くらいの選手が使っていると思います。やっぱり選手が、選手としての活動以外の業務をするのは大変なんですよ。選手は法律の専門知識を持っているわけではないので、契約書に目を通して一見大丈夫そうに見えても、契約が終わるときに揉めるようなケースもあります。
例えば、チームに入るときは友好的で、口約束では良いことを言っていたけど、移籍金が高額すぎて次のチームが探せないとか。選手だけで進めるとそういうトラブルも起きやすいので、みんなエージェントを積極的に使っていますね。

ベテランになっても、常に挑戦する姿勢を忘れない


――Evi選手が考えている、今後の目標やチャレンジについて教えてください。


Evi:

常に挑戦する姿勢を忘れないでいたいですね。人って年齢を重ねるほど、挑戦しづらくなっていくものじゃないですか。ベテランになればなるほど頭が固くなって、「今までできていたから大丈夫」という考えになりがちだと思うんです。でも、そこをちゃんと自覚して、行動力を保っていきたいですね。

――それでは最後に、eスポーツ業界で働きたいと思っている人に向けて、メッセージがあればお願いします。


Evi:

eスポーツ業界で働きたいけれど、どうすればいいのかわからないという人は、まず飛び込んでみてほしいですね。このソーシャルメディアの時代に、コンタクトが取れない先なんて、ほとんどないと思うんですよ。入りたい企業やチームがあるなら、その意志を表明して、自分から飛び込んでほしいです。
何か能力がなければいけないとか、そういう不安もあると思います。でも、そもそも行動に移せる人が少ないので、飛び込めるだけの行動力があれば、まさにそれが能力の1つ。そうした行動力や熱意は、十分に評価されるものだと思います。

――Evi選手、本日はありがとうございました!

――Evi選手、本日はありがとうございました!
取材・文:綾本ゆかり